▼「大胆な金融政策、機動的な財政政策、そして民間投資を喚起する成長戦略という『三本の矢』で推し進めます」。安倍晋三首相は所信表明演説で、日本にとって最大かつ喫緊の課題とする経済の再生に向けてこう述べた

 ▼「三本の矢」は、言うまでもなく戦国時代の武将、毛利元就の逸話に由来する。1本の矢では簡単に折れるが、3本の矢ならば、容易に折れない。3人の子どもに結束を促した言葉として伝わる

 ▼戦国の世に毛利家の存続を願った家訓だが、現代で父の遺訓を律義に守る国といえば、北朝鮮。昨年12月に事実上の長距離弾道ミサイルを発射したのは金正日(キム・ジョンイル)総書記の遺訓とされる

 ▼後継の金正恩(キム・ジョンウン)第1書記からすれば、遺訓を守ることで権力基盤を固め、〝金王朝〟の永続を願ってのことに違いない。国連安全保障理事会が制裁強化を決議すると、「高い水準の核実験」実施を打ち出した

 ▼毛利元就は希代の策略家として知られる。篠田達明著『戦国武将の死生観』(新潮選書)によれば、遺言も「われらにとって大事は武略、計略、調略あるのみ」「わが毛利家をよかれと思う者は他国はむろん当国にさえだれもおらぬと覚悟せよ」だったとか

 ▼核実験実施の明言から1週間余。武略、計略を大事とする国と日米韓の「三本の矢」をはじめとする国際社会との間で緊張が高まる。