▼「ボランティア」という言葉など使われていなかった1960年代後半、大学の部活動で全国の老人ホームをまわった。演芸や歌で交流するのだが、学生服を着ていたせいか、訪問先では「戦死した息子を思い出した」と、よく抱きつかれた

 ▼終戦から20年ちょっと。母親はまだ我(わ)が子の温(ぬく)もりを覚えていたのだろう。「同じ匂いがする」と、背伸びしながら頰ずりしてくる人もいた。恥ずかしかったが何も言えず、ただ一緒になって涙ぐんだ

 ▼人間は必ず老いる。だが家族と一緒に過ごせるとは限らない。それでも、身の回りのことを自分でできればいい。老人ホームで他人と仲良く暮らすのもいい。ところがどこにも居場所を見つけられない人もいる

 ▼渋川市北橘町の「静養ホームたまゆら」は、そんな人たちが誰にも気兼ねすることなく、のんびり生活していた施設だったに違いない。だが2009年3月の火災で10人が亡くなった

 ▼刑事責任を問われた元理事長はきのう、有罪判決を受けたが、この問題は司法の判断だけでは解決しない。人はどんな境遇になろうと、凭(もた)れ掛かることのできる〝柱〟があって初めて安住できる

 ▼日本はいま65歳以上が4人に1人。総務省の試算では2060年になると5人に2人だ。高齢化のスピードはさらにアップする。行政にはさらなるスピードが求められる。