▼静かな余韻にひたったり、難解な物語に隠されたテーマを思案してみたり。学生時代のミニシアター通いに作品へのこだわりはなかった。小さな空間で目利きが選んだ小品を見る体験そのものが目的で、今思えば少し背伸びしていたのだろう

 ▼そのころ評判になっていたのが県人口200万人を記念した『眠る男』(小栗康平監督)。暮らしていた関西地方に当時上映館はなく、帰省の折に都内で観賞した

 ▼平日昼間にもかかわらず200余りの席は多くが埋まっていた。地方学生憧れのスクリーンで郷土発の話題作を見るのは誇らしかった。上映していた岩波ホール(東京・神田神保町)が7月で閉館するとの報に、そんな記憶がよみがえった

 ▼1968年に開館し、ミニシアターの先駆けとなった。総支配人の故高野悦子さんらは世界中の埋もれた名作を上映しようという運動を始める。後に各地で小規模館の開館へとつながり、地方の映画文化を刺激した

 ▼『眠る男』も同館に育てられたと言っていい。高野さんは製作委員に名を連ね、完成後は96年当時のロングラン記録となる26週連続上映で作品を世に広めた。その後も撮影拠点の中之条町で映画祭が開かれるなど、まかれた種はしっかり芽吹いた

 ▼閉館はコロナ禍による急激な経営環境の変化が理由だが、小栗監督や俳優、ファンから惜しむ声が次々に上がる。映画文化が失うものは大きい。