▼きょう26日は「いい風呂の日」。それに合わせて「いい温泉」とは何かを考える。こんなとき、〈温泉というものはなつかしいものだ〉で始まる館林市出身の作家、田山花袋の『温泉めぐり』(岩波文庫)が頼りになる

 ▼一世紀近く前、全国各地の温泉に足を運んでつづったこの紀行文が説得力をもつのは、飾りのない言葉に本物を見極める確かな目を感じるからだ

 ▼たとえば冬の温泉地。〈深雪に埋った山村、またお山の裾にある温泉場、(略)一室に閉籠(とじこも)って、炬燵(こたつ)板の上に原稿用紙を置いて、静かに筆を走らせる快味は忘れられない〉。世離れした温泉への思い入れは、〈なつかしいもの〉だからか

 ▼〈それぞれ皆な特色があって好(よ)い〉という姿勢で温泉ごとに下す評価はどうか。辛口の注文が多いなか、草津と別府は別格扱いのようにみえる

 ▼〈あの烈(はげ)しさ、またあの分量の豊富さ、いかにも温泉はこうなくてはならないような気がする〉(草津)、〈何と言っても、温泉は別府だ。(略)これほど種類の複雑した、分量の多い(略)平民的にも貴族的にも暮らせる温泉はまア沢山(たくさん)はあるまい〉(別府)

 ▼別府などの温泉地を抱える大分県が「おんせん県」の名称を商標登録申請して波紋を呼んだことは先週、本欄でも触れた。花袋が知れば、こう言うのではないか。「日本中がおんせん県なのでは」と。