▼両親が厳格で外へ遊びに出ることができなかった少年は人形遊びに興じる。やがて人形は心のままに動くようになった。作家、牧野信一の『首相の思出』にそんな場面がある

 ▼少年は神様になったかのような気持ちになる。そして考えた。〈世間の人々を此この人形と同じやうに操ることが出来たら、自分は世界の王様になれる筈(はず)だ〉と

 ▼パソコン遠隔操作事件は4人を誤認逮捕するという起きてはならない事態を招いた。捜査当局の技量不足は言うに及ばず、取り調べで都合のいいように、不当な誘導や強要があったとすれば許されることではない

 ▼真犯人を名乗る人物は犯行声明に「警察・検察をはめてやりたかった」と記した。ウイルスは誤認逮捕させるために作られた可能性が高いという。とすれば、捜査当局もまんまと操られたことになる。猛省を促したい

 ▼以前、小欄でサイバー犯罪を透明マントにたとえ、足跡を追う捜査になると書いた。足跡の一つIPアドレス(識別番号)に頼る捜査の限界も露呈して、専門知識を有する人材の必要性も課題に残した

 ▼意のままに操った真犯人は今どんな気持ちだろうか。「道徳の伴わない知識は害あって益がない」とは教育者、沢柳政太郎の名言だ。無関係の人を陥れて恥じぬ心。悪意ある利用者がいる限りネット社会の健全化など夢のまた夢である。