▼家も妻子も捨て放浪を続けた俳人、種田山頭火(1882~1940年)の句がふっと頭に浮かぶことがある

 ▼〈まつすぐな道でさみしい〉〈分け入つても分け入つても青い山〉〈捨てきれない荷物のおもさまへうしろ〉。どれも簡潔でやさしい言葉なのに、背筋が伸びる思いにさせ、ときには折れそうになっていた気持ちを奮い立たせてもくれる

 ▼〈このみちや いくたりゆきし われはけふゆく〉。81歳の高倉健が主演し話題になっている映画『あなたへ』(降旗康男監督)のラストシーンに山頭火のこの句が出てくる。亡き妻の遺骨を散骨するため、北陸から九州まで旅をする刑務所指導技官の物語だ

 ▼高倉健の存在感とともに、途中でも使われているいくつかの自由律俳句に触れ、その背景にある孤独感、痛み、苦しみにあらためて深い共感を覚えた人が多いのではないか

 ▼それは大きな励ましともなる。教育者の小野沢実さんは『山頭火とともに』(ちくま文庫)で山頭火の作品を読むことにより、〈家庭なり、職場なりのほんとうの意味をとらえ、そこへ改めて、正しい姿で復帰する道を自分なりに見出すのではないか〉という

 ▼〈はんたうの句を作り上げること〉と〈ころり往生〉を念願した放浪の俳人は、72年前のきょう11日、心臓まひのため亡くなった。思い通りの往生だった。