〈軍人からは軍刀で脅されたこともあれば、お世辞を言われたり、ネコなで声で丁寧に陳情されたこともある〉。故福田赳夫元首相が晩年に出版した『回顧九十年』(岩波書店)で振り返っているのは、大蔵省(現財務省)時代の予算折衝だ

 ▼日本が太平洋戦争へと向かう1934年に陸軍省関係の予算を処理する主計官に就任し、開戦直前まで7年間務めた。着任2年目に陸軍青年将校らによる二・二六事件が発生。財政健全化と軍事予算抑制を図った高橋是清蔵相が殺害されている

 ▼元首相は主計官の仕事を〈明らかに使い方が適当でないものは削ったが、陸軍省もその指示には従った〉と記しているが、軍部の勢いが増すなか、まさに命懸けだっただろう

 ▼さて、現代に目を向けると、県は新年度当初予算案の編成作業で、新型コロナウイルス感染症の対策費や、少子高齢化を背景とする社会保障費の増大といったやはり簡単には削れない難題と向き合っている

 ▼昨年10月に今後5年間の当初予算編成時に年最大227億円の財源不足が生じる可能性を示すなど県財政は厳しい状況だ。予算に何を盛り込み、削るのか、各事業の必要性と費用対効果の見極めが欠かせない

 ▼2月上旬の予算案発表に向け、各部局と山本一太知事の間で連日、協議が続いている。もちろん戦前のような刃傷沙汰は論外だが、財政健全化との両立へ知恵を絞ってほしい。