▼虹はその昔、天界に住む竜形の獣と考えられていたという。雄を虹、雌を蜺(げい)といったと『字統』にある。「指さしてはいけない」などの禁忌も生まれた。天空にかかる摩訶(まか)不思議な美に、畏れを抱いたのだろう

 ▼詩人、吉野弘さんの作品『虹の足』は、行く手に榛名山が見える山路を登るバスから見た虹の情景をうたった。乗客は見とれるが、虹の足の底に抱かれた村の人々には見えないらしい

 ▼〈そんなこともあるのだろう/他人には見えて/自分には見えない幸福の中で/格別驚きもせず/幸福に生きていることが―。〉と『虹の足』は締めくくられる

 ▼広島はきのう、原爆投下から67年を迎えた。1発の原子爆弾は情け容赦なくすべてを奪い去った。かけがえのない人の命はもとより「帰る家や慣れ親しんだ暮らし、大切に守ってきた文化までも」(平和宣言)

 ▼今また日本は原発事故の脅威を目の当たりにした。畏怖された虹は現代では幸福の象徴ともなったが、幸せな暮らしを導くはずの原発は恐れに変わっている。平和宣言でもエネルギー政策の一刻も早い確立を求めた

 ▼幸福の真っただ中にいても、自分では気づきにくい。だから、よりよい快適さや利便性を求め続けるのかもしれない。帰る家があり、慣れ親しんだ暮らしがある。そんな〈格別驚きもせず〉生きる幸せの重みをあらためて思う。