▼「わからないことがあったら、この人に聞けばいい」。周りからそう頼られる知恵袋に、随分助けられてきた
 
 ▼12日に86歳で亡くなった元前橋市立図書館長の佐藤寅雄さんはその代表ともいえる人だった。前橋の歴史、文化から、知られざる人物や小さな商店の歩みまで、実によく知っていた

 ▼同市岩神町生まれ。市役所に入り、秘書課長、教育次長などを務めた。郷土史の調査に本腰を入れ始めたのは1969年、市広報の連載「伝説とその付近」を提案し執筆したときから

 ▼反響は大きく、当初予定の2倍の4年間、100回続き、『前橋の伝説百話』として出版された。500人に取材した労作から伝わってくるのは、ふるさとへの深い愛着である。2004年に自費出版した五百数十ページに及ぶ『岩神風土記』も、この土地への郷愁に満ちている

 ▼行動の人でもあった。教育次長時代、糸の街前橋の歴史を伝える「蚕糸試験場」の統合・廃止が決まった際、建物の保存を関係者に訴え、県重要文化財の指定を実現させた。建物は今、敷島公園ばら園に「市蚕糸記念館」として残されている

 ▼『前橋の伝説百話』のあとがきにこんな言葉がある。〈〝古さの大切さ〟ということをしみじみ感じた〉〈新しい前橋にのみ目を向けていくことでは、本当の新しさは培われない〉。その精神を引き継ぎたい。