▼昭和の初めに1冊1円の安価な全集が相次ぎ刊行された。火付け役は改造社の『現代日本文学全集』。各出版社が後に続き、広告合戦や著名文士の記念講演会が盛んに行われ、「円本時代」として名を残す

 ▼著作が売れれば作家は潤う。巖谷大四の『懐しき文士たち 昭和篇』によれば、円本ブームがもたらした印税で文壇には〝洋行熱〟が高まり、文士たちが続々と海外へ旅立ったという

 ▼円本の流行に触発され、創刊されたのが岩波文庫である。1927(昭和2)年7月10日のこと。その前日に創刊の辞「読書子に寄す」が公表されている。今も岩波文庫の最後に掲載されているから読んだ方も多いと思う

 ▼「読書子―」は〈真理は万人によって求められることを自ら欲し、芸術は万人によって愛されることを自ら望む〉で始まる。いわば岩波文庫のマニフェストで、知識普及を目指した出版人の気概にあふれている

 ▼マニフェストは、今は政権公約としておなじみだろう。今回の民主党の分裂騒動も消費税増税とマニフェスト順守の対立が引き金となった

 ▼解散・総選挙の動向が注目される。難題山積である。政党やマニフェストに向ける国民の目が一段と厳しさを増すのは間違いない。気概を感じられない言葉はごめんこうむりたい。〈万人によって愛される〉政治に一歩でも近づくためにも。