今年は例年よりも雪が多く、特に寒く感じます。ほとんど雪の降らない埼玉県から移住してきた私にはまだ慣れないことばかりです。
寒い冬も、木材を扱う者にとってはなくてはならない大切な季節です。木の伐採は秋から冬に行われます。大きな重機がなかった頃は、冬に伐採し、雪の上を滑らせて山から木を下ろしたと聞いたことがあります。寒くなると落葉樹は葉を落とし、根から水分を吸い上げなくなり、休眠状態になります。水分が少ないので夏よりも軽く、葉がないため作業しやすいそうです。水分が少ないと木の乾燥も早いので、非常に合理的です。
寒さは木目にも影響します。木の年輪には夏目と冬目があります。年輪を数える時に見ているのは色が濃くて細い線。これが冬目です。細いのは寒くてゆっくり成長するからです。その間の色が薄い層が夏目です。夏は成長が早いため幅が広くなっています。
木目は材料の良しあしにも関わります。立っている木を縦に切って板にすると、平行な線がたくさんある正目と波紋のような板目に分かれます。正目は変形が少なくて材料として使いやすく、取れる量が少ないため板目よりも高値で取り引きされます。板目は変形しやすいため、正目を使うか板目を使うかで、見栄えや強度に違いが出ます。
伐採後は木の割れや反りを防ぐために少なくとも1、2年は乾燥させます。自然のもので作るには時間がかかります。定量がすぐに手に入るものではないため、何年も前から準備しておかなければなりません。
木はプラスチックと違い、どこをとっても均一とはいきません。種類によって重さはさまざまですが、同じ種類でも育った環境や、皮目に近いか芯に近いか、根元か端かで重さが異なります。木工品を作るには、自然の中で育った個性ある木の目や重さをどう使うか、作り手の腕が問われます。
木が成長し、伐採、乾燥、加工を経て木工品になるまで膨大な時間がかかります。その時間と同じくらい完成した木工品を長く使ってもらえたら、作り手としてとてもうれしく思います。
そんな木の物語に思いをはせ、長い時間をかけて自分の元に届いたと想像しながら木工品を使ってみるのはいかがでしょうか。無垢(むく)の木のテーブルやまな板は手触りが優しく、使い込んでもカンナで削れば新品のように生まれ変わります。金属は冬はひやっとしますが、木には温かみがあります。木のおわんなら熱いみそ汁でも持つ手が熱くなりません。
群馬の冬は寒いですが、木工をするには良い環境です。木にとっても、人にとっても、寒い冬を乗り越える意味があると感じています。木と共に暖かい冬を過ごしていただけたらと願います。
【略歴】2018年に沼田市の地域おこし協力隊員になり、3年間、沼田桐下駄の技術を学ぶ。任期後も製作を継続。埼玉県出身。拓殖大大学院修士課程修了。