▼高崎市南部の烏川に架かる佐野橋を歩いた。かすかな揺れを感じながら欄干から身を乗り出すと、流れの中を悠然と泳ぐ大きなコイが見えた

 ▼風情を感じさせる今どき数少ない木橋で、自動車は通れない。昨年10月の台風19号で流され、先月復旧した。太陽が西に傾くと、観音山丘陵から吹く風が心地よい

 ▼橋はこれまで何度も大水で流されている。昨年の台風の記憶はまだ生々しい。またいつ身近に水害が起こるのか。想像するとやはり恐ろしくなる

 ▼先月は九州を中心とした豪雨があった。多くの犠牲者を出した熊本県の球磨川水系には川辺川ダムが計画されていた。八ツ場ダム(長野原町)と並んで必要性が議論され、建設計画が中止されたダムだ。「ダムなし治水を極限まで追求する」。そう表明した蒲島郁夫熊本県知事に、脱ダムの考え方を質問したことがある。10年前だが、表情に迷いは読み取れなかった

 ▼だが、いま再び川辺川ダムがあった場合の治水効果を指摘する声が上がる。規模は違えど、佐野橋の上流域に計画された倉渕ダム(高崎市)、増田川ダム(安中市)も中止になった。12日に須田貝ダム(みなかみ町)を視察した菅義偉官房長官はダムによる洪水対策に前向きな考えを強調している

 ▼烏川で見たあの大きなコイをいつか釣り上げてみたい。治水あってこそ、夢も見られる。