▼終戦から75年という節目の夏、戦争体験者の言葉に、風化を防ぐ取り組みの重要性をこれまで以上に痛切に感じた。なかでも忘れまいという思いを強くしたのは、一棟の建物のことだった

 ▼前橋市中心街にあった麻屋百貨店。北関東初の百貨店として1934年に開業し、県内外の買い物客でにぎわった。前橋空襲でも奇跡的に焼け残ったが、64年に閉店。建物は市民から保存活用の要望があったにもかかわらず、2011年に取り壊された

 ▼この麻屋の、終戦直後の様子が映る動画を初めて見ることができた。東京の戦争資料博物館が所蔵する米軍撮影の記録映像「前橋の街並み風景その他」だ

 ▼戦争の無残さと、戦前、戦後にわたる商店街繁栄の歴史を伝える語り部だったことが実感できた。前橋ではそんな人々の記憶が刻まれた建物や街並みも、十分に検討されることなく失われることが多かった

 ▼この状況が少しずつ変わりつつある。臨江閣近くの広瀬川にかかる石川橋の架け替え工事で、古い欄干は、るなぱあくとひょうたん池を結ぶトンネルの上に移転保存された

 ▼新橋も以前の雰囲気に近い造りだ。詩人たちに親しまれた歴史があり、愛着をもつ市民の声を受け判断したという。麻屋のケースとは大きな違いだ。欄干に手を触れると、歴史の痕跡を守らねばと鼓舞された気がした。