映画「フタリノセカイ」の一場面(C)2021 フタリノセカイ製作委員会
「物語を紡ぐ時間は楽しくも苦しくもある。実体験から想像を膨らませて作品にしている」と話す飯塚さん

 「人生で発見したことや気付いたことをシェアしていきたい」。群馬県前橋市出身の映画監督、飯塚花笑さん(31)は、自身もトランスジェンダーであるからこそ描き出せる世界観で映画製作を続けている。1月からは商業映画デビュー作となる「フタリノセカイ」が順次公開中だ。映画に懸ける思いを聞き、魅力に迫った。

 「映画は言葉と言葉の隙間にある、手の届かないもどかしい感情や感覚を表現してくれる」。小学2年生で映画「もののけ姫」を見て言葉がなくても映像表現で人と何かを分かち合ったり共感できたりすることに感動した。映画監督になってこうした表現をしたいと思ったという。

 前橋、高崎両市で撮影された「フタリノセカイ」はトランスジェンダーとして葛藤する真也と、恋人のユイが織りなす10年間を描く。「トランスジェンダーが結婚や出産ができないとなったとき、2人にとっての幸せは何かを見つけたかった」と思いを語る。

 印象に残る真也とユイ、友人の俊平がカフェで話をするシーンは即興劇。「役として生きてきた俳優の生の言葉を聞いてみたい願望が湧き上がった」とこの手法を用いた理由を明かす。撮影は1回で成功し、これ以外の正解はないと思ったという。

 映画は若者からの反響が大きく「セクシュアルマイノリティー(性的少数者)や幸せについて意見にとらわれず考えたい」との声がSNS上に寄せられている。

 飯塚さんは幼少期、性別に対しての感覚が周りと違うことをあまり気にしていなかった。高校に入り、性同一性障害と自覚し、女子として学校に通うのがつらくなった。相談した先生は理解してくれたが、他の先生の理解は得られなかった。やがて両親にもカミングアウトした。

 学校とのやりとりを1年以上続け、男子生徒として通えるように。友人たちは理解があり、楽しい学校生活を送れた。両親は少しずつ理解してくれた。

 大学在学中に自身の経験をもとに製作した「僕らの未来」(2011年)は、ぴあフィルムフェスティバルで審査員特別賞を受賞。海外からも高い評価を受けた。「伝えたい思いとストーリーを作り上げて撮影すれば、言語が違っても共感してくれる」。これを機に覚悟が決まった。

 夏ごろの公開を目指すフィリピン人の母親を持つ太田市に住む高校生、純悟の不安定な感情と成長を描く「世界は僕らに気づかない」は、全編県内で撮影された。「文化の違いから生まれる親子の葛藤の物語を撮ってみたいと思った」と動機を話す。

 邦画はキャストありきで作られることが多いことから、新しい手法としてキャストの大部分を県内で行ったワークショップオーディションで選出。「俳優が半年から1年かけて役に真摯(しんし)に向き合った。他の映画に出せない厚みが生まれたのでは」と期待を込める。

 本県と東京都を拠点に製作を続ける。「群馬を盛り上げたい。都心で作られる映画に引けを取らない作品を群馬から発信したかった。映画業界や役者志望の人の希望になれたらうれしい」

 いいづか・かしょう 1990年、前橋市生まれ。東北芸術工科大デザイン工学部映像学科卒。2013年4月から1年間、シネマテークたかさきでアルバイトを経験。19年フィルメックス新人監督賞受賞。