▼〈あなたがそこにいたなら、女たちの金切り声を、子どもたちの泣き声を、男たちの叫び声を聞いたでしょう〉。イタリア・ナポリ近郊のポンペイは約2千年前、ベズビオ山の大噴火で噴出物にのみ込まれた。文人のプリニウスは友人への手紙に、ポンペイに近いミセヌムの様子をこう記した

 ▼火山灰に埋まったポンペイは、人々の生活がそのまま封印されたタイムカプセルとなった。東京国立博物館で4月3日まで開催中の特別展には、遺物150点が並ぶ

 ▼特別展のキャッチフレーズは「そこにいた」。鮮やかに描かれた壁画や炭化したパンなどからは、人々の日常や社会の熱量が伝わってくる

 ▼遺跡発掘の歴史にも驚く。1748年に本格的な発掘が始まって以来、270年以上の時を経て今も調査が続いている。同館の小野塚拓造主任研究員は「時代ごとに発掘の動機や態勢は異なるが、これだけ長く続いているのはひとえに噴火で埋まったこの遺跡の魅力による」と説明する

 ▼ポンペイで発掘作業が始まってから後の1783年に大噴火したのが浅間山だ。この噴火で埋没した嬬恋村鎌原の発掘調査が、昨秋30年ぶりに始まった。6カ年計画で新たな遺物を探し、集落の全体像を探る

 ▼日本のポンペイと呼ばれる鎌原にも、「そこにいた」人たちの痕跡があるはずだ。息の長い取り組みによって、現代に浮かび上がらせてほしい。