昨年11月8日、イプシロンロケット5号機が鹿児島県の内之浦宇宙空間観測所(以下、内之浦射場)から打ち上げられ、搭載した衛星9機全てを所定の軌道に投入した。ロケット打ち上げに協力してくださった全ての皆さまに感謝申し上げます。

 今回の打ち上げは2回延期となったが、2回目の延期については「内之浦射場近辺は好天だったのになぜ天候理由で延期するのか?」と思われた方も多かっただろう。

 打ち上げられたロケットが上昇していく途中で分離するフェアリング(ロケット先端の衛星を保護するカバー)や、使い終わった各段ロケットの燃え殻は海上に落下する。また、万が一ロケットが故障した場合や計画された飛行範囲を超えそうな時は指令破壊するのだが、風向きや風速によっては破片が地上に落下してくることも考えなければならない。

 このようにロケットの正常・異常によらず、落下・飛来する部品などによる人命や財産への被害を防止し、公共の安全を確保することを「飛行安全」と呼び、法的にもその確実な実施が求められるようになった。イプシロンロケットが打ち上げられる内之浦射場の近隣には一般の方々の住宅があり、打ち上げ当日に退避の協力をお願いしていることは大変申し訳なく思う。

 ロケットも飛ばし方の工夫をしている。イプシロンの打ち上げ動画をご覧いただくと気付かれると思うが、垂直に打ち上がったイプシロンは直後に機体を海側に傾けて、民家のある陸地から遠ざかって飛んでいくようにしている。ただ、打ち上げ時の風向きや風速は正確な予測が困難で、確実に安全を確保するために直前まで上空の風向・風速を実測し、飛翔計算を行って確認作業を進めている。2回目の打ち上げ延期ではこの直前の計算結果が規定を満足できず、延期の判断に至った。

 実際は射点近くだけでなく、経路上に人が住む区域がかからないように飛行経路を定めており、遠回りをして宇宙に行っている。この点だけでも、射場が広大で、経路上に人の住む地域がない射場を利用する欧米のロケットより3割ほど打ち上げコストが高くなっている。海外で一般化されている手法をそのまま適用するのではなく、これまでわが国が独自に築いてきた貴重な宇宙活動の実績を基に飛行安全の評価の基準などを客観的に検証し、合理的な見直しを加える時期に来ていると感じる。

 内之浦射場からはこれまでに400機以上のロケットが打ち上げられ、打ち上げに伴う事故が皆無であることは胸を張れる実績である。海外の例を参考にしつつ、国の状況に応じた飛行安全の在り方を議論することも、打ち上げ頻度を高め、宇宙を産業として活性化するための重要なステップと考える。

 【略歴】現IHIに宇宙航空事業を譲渡する前の日産自動車に入社し、IHIに移籍。同社宇宙開発事業推進部長を経て2021年6月から現職。東京大工学部卒。

2022/2/5掲載