独特の文様が目を引く衣服などが並ぶ企画展
アイヌ民族が祭事に使うイナウ
県内で小正月に用いるケズリバナ

 アイヌ民族の暮らしに焦点を当てた群馬県立歴史博物館の企画展「アイヌのくらし―時代・地域・さまざまな姿」が3月6日まで、高崎市の同館で開かれている。衣服や交易品、伝統意匠を施した工芸品など約250点を紹介している。厳寒の環境下で狩猟や農耕、植物採取を営んだアイヌ民族。生きるために重ねた工夫や精神性を表す行事、祭りなどを暮らしの品々から見つめることができる。

 同展の大きな特徴の一つが、展示品のルーツがはっきりしている点だ。使用していた時期、地域に加え、誰が使っていたかが明らかなものや、それらを使う様子を捉えた写真、研究者らが聞き取った証言を一緒に展示している衣服もある。同館学芸員の武藤直美さんは「文字を持たず、自己の文化を残そうとしなかったアイヌ民族の貴重なメッセージ」と話す。

 会場は北海道内外の地域ごとに分けられ、ひとくくりの「アイヌ」ではないという理解を深めることができる。道内に関する展示では日本海、オホーツク海、太平洋それぞれの沿岸地域で培った文化や暮らし方を紹介している。

 各沿岸と大きく異なる文化を育んだのが千島列島(クリール諸島)北部と樺太(サハリン)。隣接する半島や大陸の民族との交流を生かし地域色豊かな暮らしが発展した。これまで存在が知られてこなかった千島アイヌのロシア風衣服は目を引く。

 一方、19世紀以降は日本とロシア両国の間で極めて過酷な歴史を歩んだ。千島アイヌの子孫であることを公表した人が1人もいないといい、展示では「国家が一つの民族集団を離散へ追い込んだ事例として記憶されなければならない」と訴える。

 アイヌと本県との直接的な結び付きを示す展示品はないが、類似性がある品として県内各地のケズリバナが並ぶ。五穀豊穣(ほうじょう)などを祈り、小正月に飾られるケズリバナ。並べると、アイヌ民族の神事に使うイナウに似ている。1本の木から作り、小刀などで表皮を薄く途中までそぎ、ちぢらせる削り掛けという技術がいずれにも用いられている。

 アイヌ工芸品展としてアイヌ民族文化財団などが毎年、道内外で1カ所ずつ開いている。本県開催は初めてで、同館が今回の企画展を道外で見られる唯一の会場となる。担当者は「県外からも問い合わせがあり、注目の高さを感じる」と驚く。

 明治政府が制定し約100年続いた「北海道旧土人保護法」の下で実施された同化政策によって多くの独自文化が衰退したとされる。「アイヌ」はアイヌ語で「人間」の意。かつてアイヌ民族の暮らしの中にあった展示品は、来場者へ多くを問い掛けている。

 展示は2期制で前期は13日まで、後期は15日~3月6日。午前9時半~午後5時で月曜休館。観覧料は一般600円、大学・高校生300円、中学生以下無料。入館は事前予約制。問い合わせは同館(電話027-346-5522)へ。

研究者が講演 絵画で知る暮らし

 「アイヌのくらし」展に合わせ、北海道大アイヌ・先住民研究センター客員教授の佐々木利和さんが先月、県立歴史博物館で「いわゆる近世のアイヌのくらし」と題して特別講演した。

 佐々木さんは文字資料が少ない中、18~19世紀前半のアイヌ民族の生活を描いた絵画からアイヌ民族像を解明する研究方法を採っているという。アイヌ伝統家屋が描かれた絵を示し、北海道南部の家屋には高床倉庫や祈りの場所があったと解説。屋内には「交易で得た漆器が家宝として大切に置かれている」と話した。

 女性が家の外で伝統衣服「アットゥシ」を織る絵も紹介。女性の傍らにいる子どもは衣服をまったく身に着けておらず「3歳くらいまでは裸で過ごす慣習だった。体を鍛える目的もあったようだ」と説明した。

 講演の主題に「いわゆる」と付けたことについては「近世は日本史の時代区分」と説明。「日本文化の視点が基準になっていないだろうか。アイヌに対する尺度が必要」と、より理解を深められる同展観覧のポイントを助言した。