▼北海道と本州を隔てる津軽海峡には見えない一本の線が走っている。英国の動物学者の名にちなみ「ブラキストンライン」と呼ばれ、これを境に動物の分布が変わる。ツキノワグマやニホンザルの北限で、ヒグマやナキウサギの南限である
▼「ベルクマンの法則」によれば、恒温動物は寒冷な地域に生息するほど同じ種でも大型化する。ヒグマやエゾシカがよい例だ
▼人間には当てはまらないが、北海道にはわれわれと異なる文化と歴史を持つ人々が暮らしている。アイヌ民族である。樺太や千島列島のほか、東北地方にも住んでいたようだ
▼動物や植物、火や風など人間が作れないもの、手に負えないものをカムイ(神)として敬った。文字を持たず、大切なことを口承した。だが明治政府による同化政策で、アイヌ語を話せる人は減ってしまった
▼消えゆく口承文芸を翻訳したのが知里幸恵(1903~22年)である。言語学者の金田一京助と出会い、祖母から聞いた叙事詩「カムイユカラ」を『アイヌ神謡集』としてまとめた。だが校正を終えた直後に倒れ、19歳で亡くなった。遺作となった神謡集はアイヌへの思いがあふれる
▼独特な文様を施した衣装や装飾品を紹介する展覧会が3月6日まで、県立歴史博物館で開かれている。木を削った祈りの道具「イナウ」と本県のケズリバナに類似性があることも興味深い。アイヌ民族を知る貴重な機会だ。