「鼻までマスクを着けてね」と声を掛けながら子どもを見守る幼稚園職員。活発な園児を、濃厚接触者の線引きに当てはめるのは容易ではない=今月上旬、太田市

 新型コロナウイルスの感染拡大によって逼迫(ひっぱく)する保健所の業務効率化のため、群馬県が「積極的疫学調査」のうち高齢者施設や医療機関などを除き、濃厚接触者の特定を学校や企業などの当事者に依頼している。現場からは「特定漏れがあったらと考えると不安」と困惑の声が上がり、同業者間でも捉え方に差が生じ「事業所によって基準がばらばら」との指摘もある。感染拡大防止対策と共に、不慣れな特定作業に苦慮する現場を取材した。

■予測不能

 「濃厚接触者の定義は、どこまでの園児に当てはまるのだろうか」。太田市内のこども園の園長は頭を悩ませる。活発な園児は予測不能な行動をし、一律の特定は難しいと考えられるためだ。「働く親の負担を考えると、安易に多くの園児を、登園見合わせの濃厚接触者に特定することはできない。でもクラスターが発生してしまったら…」と困惑する。

 同市のある幼稚園では、1月下旬に園児の陽性者が判明。園医に相談し、同じ空間で過ごしたとしてクラス全員を濃厚接触者に特定した。園の職員は「感染拡大の状況なので、保護者も冷静に受け止めてくれた。他の園では、濃厚接触者以外からも陽性者が出ていると聞くので、大事を取って休んでもらうしかない」と話した。

 市こども課によると、園によって特定の判断に違いが出てきている。これまで濃厚接触者以外も検査結果が出るまでは短期間の臨時休園ができた。しかし第6波の拡大により、“グレーゾーン”の園児までも過剰に特定すると、検査キットの不足などのため結果不明のまま休園が長引きかねない。保育の崩壊を避けようと、園医に相談した上で陽性者の周囲の数人のみを特定する園もあるという。

■受け止めに差

 「(特定の範囲が)拡大しすぎじゃないかと感じることもある」。製造企業と取引が多い人材派遣会社の40代男性役員はため息をつく。派遣先で感染者が出ると、基準に該当しないとみられる状況なのに、派遣社員の休業を求められるケースがあるという。「派遣先の意向には従わざるを得ない。1月以降は特に休業者が増えた。休業分を補償しないとだが、十分にできていない」と頭を抱える。

 一方、大企業はこれまでの対応の経験を生かし、冷静に受け止める。1万1千人超の従業員が働くSUBARU(スバル、東京都渋谷区)の群馬製作所(太田市、大泉町)では、初めて感染者が出た2年ほど前から、担当部署が保健所の指導を受けながら対応基準などを策定し、必要に応じて更新してきた。同社担当者は「濃厚接触者の判断を自社で担うことになっても大きな変化はなく、混乱はない」としている。

 県によると、保健所では限られた職員を新規陽性者の対応に充てるよう業務を効率化し、一定の効果があるという。一方、感染の拡大により連日深夜まで電話対応に追われるなど、厳しい状況は変わらない。

 担当者は「効率化したことでようやく業務を維持できている。濃厚接触者の特定は当事者で判断し、症状の不安があればかかりつけ医やコールセンターを活用してほしい」と理解を求めている。

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