前回(昨年12月23日掲載)は音楽が調和していることをいくつかの視点から見ました。今回はそれを社会に伝えていくアイデアを考えます。

 誰しも子どもの頃の体験で今でも心に残っているものがあるでしょう。例えば私は、小学生の時に海へ行って食べたカキが初めておいしいと感じたことをなぜかよく覚えています。「初めての感動」は強く、ずっと心に残ります。

 小学校などでコンサートを行うと、その後のアンケートや感想でこちらが予想している以上にうれしい声をもらうことが多くあります。いつも一定数あるのは「初めて近くで楽器のコンサートを聴いた!」という内容です。そしてそれに驚きと感動の言葉が続きます。

 私たち音楽に携わっている者は初めてということに驚きを感じてしまうのですが、確かにわざわざ家庭でそのような機会を持とうとしなければ聴く機会はないのかもと気付かされます。世の中にスマートフォンやテレビからの音はあふれていても、アコースティックな音楽は皆にとって日常的なものではありません。

 聴くこと自体は初めてではない場合でも、子どもたちの反応はとても新鮮です。私は基本的には専門であるクラシックを演奏しますが、ややもすると「難しい」と捉えられがちな音楽も、子どもにはスッと受け入れられているように感じます。初めて聴く曲だとしても、子どもにとっては新しいものとの出合いは日常的なことなので、未知のものに対する抵抗が少ないのでしょう。

 時を経て今も残る名曲は、それぞれに個性的な世界観を持っています。考え方の基礎をつくる時期にさまざまな刺激に触れることで、子どもの精神的な世界が一層広がっていき、多様性を学ぶことができます。

 音楽が、そのような貴重な幼少期に心に残るものとなるために、私たち演奏家の果たす役割が大きいのは明白です。アコースティックな音は演奏者がそこに「いる」ことで初めて存在します。オンラインでは不可能です。大きなホールではなく、子どもたちの心により近づけるような場所と距離で演奏することで、一層親密な体験となります。

 子どもにとって日常的な場所はやはり学校や幼稚園などです。声が届く距離で、演奏者の話も交えながらのコンサートは確実に音楽の種をまき、調和の取れた豊かな人生を社会にも広められる素晴らしい機会ではないでしょうか。その子にとってその体験が将来にわたって貴重なものとなるならば、その一度のコンサートの貴重さは計り知れません。

 音楽に対する「初めての感動」。音楽の内包する調和の力も含めて大きな体験として子どもの心に残れば、演奏者としてもこれほどうれしいことはありません。

 【略歴】ソロ演奏会をはじめアンサンブル、伴奏、オーケストラとの協演など多岐にわたって活動する。元高崎演奏家協会長。前橋高卒。ウィーン市立音大首席卒。

2022/2/17掲載