豆腐を専門に活動するようになり、周囲から「お勧めの豆腐を教えて」と聞かれることが増えました。日本各地には郷土色豊かなものや品評会受賞店の逸品など、一度は味わってほしい豆腐が数え切れないほどあります。

 しかし、遠方から日常的に取り寄せるのは、日持ちの短さや配送コストもあってハードルが高いのが正直なところです。そこで、身近に手に入りやすい豆腐をよりおいしく食べるこつとして「温度」を意識することをお勧めしています。豆腐は食べる温度によって食感も風味も変わる繊細な食材だからです。今回は「冷ややっこ」と「湯豆腐」を食す適温を紹介します。

 冷ややっこは夏の涼味として楽しまれてきただけあって、食卓に出す直前まで冷やしておいて食べる方が多いようです。しかし、冷蔵庫から出したての豆腐は冷たすぎて、大豆に含まれる脂質のうま味や甘みを舌で十分に感知できないと言われています。

 適温は17度程度。これが冷たさとおいしさが両立する温度とされています。温度計で正確に測る必要はなく、「冷蔵庫から出して20~30分、常温に慣らしてから食べる」と覚えて実践してみてください。

 私はそのまま一口食べてから調味料や薬味の量を調整するようにしています。大豆本来の風味が引き出されることで、しょうゆのかけすぎを防ぐことができます。

 湯豆腐はだしを張った鍋に豆腐を入れて加熱する単純な料理に思えますが、京都の専門店では「温度管理が肝」なのだそうです。例えば、豆腐を高温で長く火にかけてしまうと、大豆のタンパク質と凝固剤成分の反応が強まって食感が固くなってしまいます。さらに、豆腐の水分が沸騰して外へ出ようとするため「す」が立ち、滑らかな食感が失われます。

 こうした理由から導き出された湯豆腐の適温は、表面はしっかり温かく感じる70度程度、中心温度は大豆本来の甘みを感じる50度程度と言われます。沸騰しないよう温め、ゆらゆらと浮かび上がったころにすくい上げるイメージです。中心まで熱くなると風味が飛び、やけどの原因にもなるため、大きめに切って内部に緩やかに火を通すのがこつです。鍋底に昆布を敷けば急激な沸騰を防げます。保温性の高い土鍋を用いる場合は豆腐が温まったところでいったん火を消し、ふたをして余熱の力を借りましょう。

 「食べる人の視点」からすれば好みがありますので、これらが唯一の正解とは言いません。季節やその日の体調によっても適温と感じる温度に多少の差は生じるでしょう。それでも、「豆腐の視点」から温度を見つめ直し、何げなく口にしてきた冷ややっこや湯豆腐をよりおいしく味わうために参考にしてほしいと考えます。

 【略歴】幼少期から豆中心の食生活を送り2013年に豆腐マイスターの資格取得。執筆活動・メディア出演などを通じて豆腐の魅力を伝える。前橋市出身。立教大卒。

2022/2/18掲載