▼古代ローマの英雄、ユリウス・カエサルは借金王としても知られる。仮にカエサルが失脚して返済できなくなれば、貸し手も破滅を免れないほどの莫大(ばくだい)な金額だったらしい

 ▼作家の塩野七生さんはその結果、カエサルが逆に「強い債務者」となり、最大の債権者で後に「三頭政治」の一翼を担うクラッススが支え続ける構図が生まれたとみる。カエサルは海賊に捕らわれた際も身代金を自ら高く釣り上げ、相手に殺しては不利と思わせて身の安全を確保したというから恐れ入る

 ▼県が先日発表した2022年度当初予算案で借金に当たる県債の残高は1兆2782億円だった。財政の健全性確保を重点の一つに掲げ、21年度から338億円減った。全体の残高が減少するのは実に16年ぶりという

 ▼財政規模に対する返済額の割合を示す「実質公債費比率」を20年度決算で比較すると、本県は10.0%で47都道府県中19位。全国平均の10.2%より良い水準だが、順位は10年前の3位から少しずつ後退している

 ▼県債には道路や橋のように未来の県民まで長く使用する事業を進める際、整備費の一部を将来世代にも負担してもらう意味があり、一概に悪いと言えない

 ▼ただ、少子高齢化に伴う社会保障費の増大や災害の激甚化など財政を脅かす懸念材料には事欠かず、過度の借金は禁物だ。過激なカエサル流も困る。引き続き地道に健全性を高めてほしい。