「南無八幡大菩薩、我が国の神明、日光の権現、宇都宮、那須の湯泉大明神」。いきなり何だ?と思う方もいるでしょう。小学校の頃、国語の授業で学んだ平家物語は暗唱するほど夢中になりました。冒頭の言葉は、那須与一が屋島の戦いで、海に浮かぶ船上の扇を射止めるため神に祈ったものです。的を外せば死をもって償うという決死の覚悟に、子どもながらに考えさせられたものです。

 今年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」は、その平家物語の時代の話です。鎌倉幕府や源頼朝、源義経、静御前が登場します。そんな人物たちの伝承や物語が、ここ上州群馬に数多くあることをご存じですか? 今回は県内に残る伝承や場所、それらを語り継いでくれている方について紹介します。

 歴史関連の仕事をしていると、伝承や伝説、昔話などに関する知識が豊富な先輩たちとお話させてもらう機会が多くあります。話せば1、2時間はあっという間に過ぎてしまいます。それぐらい面白いのです。古文書などに出てくる話なので、後で図書館で調べるのが大変なときもありますが、やっぱり面白いのです。

 例えば平家物語は、県内にゆかりのある場所がいくつもあることを最近知りました。長野原町の狩宿や万騎峠、草津町の白旗の湯などは源頼朝に、渋川市北橘町箱田は木曽義仲と巴御前にゆかりがあります。高崎市八幡原町には鎌倉殿の13人の1人でもある安達盛長の館が、甘楽町には那須与一が居住し弓の鍛錬を行ったとされる場所があります。

 前橋市の荒牧神社にあるのは源義経伝説です。静御前が愛する義経を追って奥州へ向かう途中、病にかかり現在の同市岩神町辺りで亡くなってしまうという切ない話があります。付近にはお墓が残っています。世話をしてくれた人にお礼として渡す物がなく、代わりに「静」の名を与えたとか。興味のある方はぜひ、それぞれの物語を調べてみてください。

 このような話は地域で人から人、親から子、子から孫へと伝わっています。ただ、話を伺った先輩たちはそろって「最近は伝える人が高齢化し、興味を持ってくれる若者や子どもが本当に少ない。そのうち全て忘れられてしまう」と嘆きます。私も歴史が好きですし、歴史関連のお祭りの実行委員会にも参加させてもらっているので、次の世代に伝え残したいという気持ちは同じです。

 地名などとして土地に残る名にはそれぞれ意味があります。地元の歴史や伝承、地名の由来などを聞く機会があればぜひ耳を傾け、そしてそれを誰かに話してみてください。語り継ぐことが私たちの使命だと考えます。語り継ぐその瞬間は「点」です。いつか点と点がつながって線となり、新しい「何か」になるかもしれません。

 【略歴】企業で働きながら有志でつくる本格格闘甲冑集団・式で演舞用の甲冑作りを開始。2019年に北群馬甲冑工房を設立した。御城印なども製作。前橋工業高卒。

2022/3/2掲載