人気バーチャルユーチューバー湊あくあと獅白ぼたんによるRedBull5Gの解説動画(c) COVER (c) 2022 Red Bull
熱戦が展開されたRed Bull 5G 2021 FINALS=昨年11月27日、高崎・Gメッセ群馬

 成長分野として熱視線が注がれるeスポーツ。担当課を設けた群馬県だけでなく、全国の自治体でも都道府県対抗の全国大会を開いたり、専用施設を整備するなど地域振興に向けた取り組みが盛んになっている。eスポーツの「聖地争奪戦」ともいえる状況の中、いかに存在感を示すかが課題となっている。

目指せ「アキバ」

 「県が目指すのはeスポーツ界の『アキバ』。2030年には群馬に来ると仲間がいて、認め合えるようになっていたい」。eスポーツ大会「Red Bull 5G」決勝大会を前に、昨年10月に高崎市で開かれた座談会で宇留賀敬一副知事が口にした。「さまざまな場所を会場にできるよう規制を緩和するなど大会運営がしやすいよう取り組み、本県が選ばれるようにしたい」と目標を掲げる。

 eスポーツを地方創生の切り札と見るのは本県だけではない。北関東3県の先陣を切った茨城県。19年に国体の文化プログラムとして「全国都道府県対抗eスポーツ選手権2019 IBARAKI」を初めて開き、国内eスポーツの拠点として名乗りを上げた。歴史のある国体ブランドはeスポーツの発展と普及への糸口となり、eスポーツ業界からも歓迎された。

 これを皮切りに同県は20年から県内企業や団体の交流大会「Ieリーグ」を開催。関連産業の誘致・創出などを目的に、企業や学校関係者を対象とした講座「いばらきeスポーツアカデミー」も開く。産業政策課の清水浩生課長は「eスポーツはITの学びの入り口になる。普及させ、若い層を育てたい」と意気込む。

 栃木県でも今年、国体に合わせた同選手権が開かれる。北海道旭川市はeスポーツ施設を備えた「ICTパーク」を昨年整備してローカル5G通信の実証実験を始めるなど、全国でeスポーツ活用の機運は高まっている。

Vチューバー

 大会をどう発信するかも鍵だ。eスポーツ観戦は会場で楽しむだけでなく、多くの場合でオンライン配信される。群馬県が企画した各種大会では主に、ライブ配信に特化した「ツイッチ」と動画投稿サイト「ユーチューブ」を使い、ライブ映像を公開してきた。

 ただ、2月23日に行われた企業対抗の社会人大会「GUNMA LEAGUE」決勝大会は、ユーチューブ配信同時接続が平均90人前後(速報値)、総視聴数4千ほどと伸び悩む。U―19大会などは計1万視聴程度で、県はさらなるプロモーションの必要性を感じている。

 国内では、大会PRにキャラクターのイラストやグラフィックを動かして活動するバーチャルユーチューバー(Vチューバー)を起用する動きもある。ゲームの実況動画を配信するVチューバーも多く、イベントとの親和性が高いのが特徴だ。「Red Bull 5G」では、人気Vチューバーをプロモーションに起用。19年の茨城国体とともに開かれた同選手権は、県公認Vチューバー「茨ひより」がイベントの司会を務め、注目を集めた。

 県eスポーツ・新コンテンツ創出課は「今後は県独自の動画・放送スタジオ『ツルノス』を持つ強みを生かし、より多くの人に見てもらいたい」としている。

「5Gで劇的変化」 通信速度 4Gの100倍 基地局の整備 栃木県が率先

 eスポーツと切っても切り離せない存在がオンライン通信だ。現在は通信の安定性などの観点から有線接続が使われるのが大半だが、第5世代移動通信システム(5G)の無線接続には期待する声が多い。

 高速大容量の5Gは遅延が少ないのが特徴で、現在主流の4Gと比べて通信速度は最大100倍とされる。sub6(サブシックス)とミリ波の主に2種類の周波数帯があり、県内では現在、4Gに環境が近いsub6が中心。より高性能のミリ波の普及のめどは立っていない。

 通信事業者による県有施設への基地局整備を進めるため、栃木県は5Gネットワークの早期展開を促進するワンストップ窓口をデジタル戦略課内に開設。ホームページで県有の土地や建物の一覧を公開したり、事業者を各施設の管理部局につないでいる。これまでの実績は4Gの基地局が中心だが、今後、5G対応の整備を進めたい考え。

 イベントでの利用という点では、範囲を限定して通信するローカル5G技術の活用も検討されている。遅延の許されない環境が求められるeスポーツ大会にも対応できる。

 県eスポーツ連合の鎌田一郎代表理事は「5Gが普及すれば、ゲームを取り巻く環境は劇的に変わる。通信の進歩で、どんなコンテンツが生まれるのか期待したい」と展望する。eスポーツ大会「Red Bull 5G」の運営に携わったグルーブシンクの松井悠CEOも「新しいeスポーツ観戦の仕方を提案するきっかけになるのであれば、積極的に新しい技術を採用したい」と意欲を示している。

ゲーム依存対策 保護者、ルール作り必要 飯塚秀伯さん

 eスポーツが普及する中で、ゲームへの過度なのめり込みにより、日常生活や社会生活に影響を及ぼす「ゲーム依存症」が問題となっている。子どもは自分でコントロールするのが難しく、ゲームとどう付き合うかは大きな課題だ。

 ゲームのやり過ぎで眠れなくなったり、学校に行けなくなったり―。eスポーツのプロ選手を目指す子どもが増えるとみられる一方で、ゲーム依存を不安視する保護者は少なくない。

 NPO法人ぐんま子どもセーフネット活動委員会の飯塚秀伯理事長は「子どもがプロ選手を目指すなら、野球やサッカーと同様に、親もeスポーツについて知識と理解が求められる」と指摘。親が子どもと積極的に関わり、食事や睡眠を含む規則正しい生活、ゲームの時間について、しっかりルール作りをする重要性を訴える。

 さらに、子どものゲーム依存対策にはゲーム機の制限機能を活用したり、魚釣りやキャンプといったリアルな遊びの体験も効果的だとする。

 eスポーツ推進に取り組む県も、ゲーム依存対策を強化している。中高生向け教育プログラムを提供する北米教育eスポーツ連盟日本本部(NASEF JAPAN)と連携し、心身の健康のためのチェックシートを作成。ホームページで公開しており、人間的な成長を促す「教育的eスポーツ」を広めたい考えだ。

 飯塚さんは県の対策を評価した上で、「行政と学校、民間が一緒に教育的eスポーツを推進できる形をなるべく早く整えてほしい」と訴える。

《視点》IT人材育成の契機に

 「ゲームは1日1時間まで」などと家庭ごとに決まりがあった人も多いのではないだろうか。これまで遊びだと考えられてきたコンピューターゲームが、一部はeスポーツ競技として考えられている。桐生第一高など、学校の部活動にeスポーツを採用する動きもある。

 認識の変化に戸惑う人が多いかも知れないが、社会はIT化し、多くの企業ではDX(デジタルトランスフォーメーション)が喫緊の課題となっている中、変化は当然とも言える。

 文章しか書けない記者には苦しい話だが、プログラミング教育が必修となり、今後の社会で活躍する人材にはいやが応でもプログラミングの知識が求められる。eスポーツはその入り口となることが期待されている。県eスポーツ連合も、ゲームを通してデジタル人材を育成することを活動の大きなテーマに据える。県内がeスポーツの聖地となるとともに、新時代を切り開くデジタル人材の輩出県としても知られるようになることを期待したい。

 新型コロナウイルスの影響もあり、社会全体がオンラインでのつながりに適応する機会を得たことで地方で影響力を持てる環境が整った。オンラインイベントでは、視聴者参加型で会場を盛り上げていく仕組みなどを考える必要があるだろう。聖地の土台づくりとして県内の次世代通信インフラの整備にも積極的に取り組んでもらいたい。