糸をミシンで複雑に縫い付け、刺しゅうアクセサリーを生み出す
外見と機能性が評価されたマスク「FACE DRESS」
「笠盛は良い物を作っている。それを発信することはお客さんの安心にもつながるはず」と話す桜井社長
ミシンを動かすために図案をデジタル化する
インスタグラムの生配信でトリプル・オゥの魅力を発信する社員

 布地に図案を縫っていく刺しゅうは平面の物を想像しがちだが、笠盛(桐生市三吉町)の刺しゅうアクセサリーブランド「トリプル・オゥ」は立体的な構造を特長とする。

糸でつくる玉

 中でも目を引くのは、まるで真珠のネックレスのように糸の玉が連なった「スフィア」シリーズだ。芯がなく、糸だけで玉を作ることは刺しゅうの常識を打ち破る挑戦だった。

 インドネシアでの失敗を受け、2007年から国内外の展示会に出展し、徐々にトリプル・オゥが目指すべき方向性を捉えていった。既にその頃、水溶性の布に立体的に刺しゅうし、後から布を溶かすことで糸だけのアクセサリーを作ることに成功していた。さらに存在感のあるアクセサリーを生み出すため、行き着いた答えが糸で玉を作ることだった。

 商品化のためには、ミシンで安定した量を製造できなければ意味がない。図案をコンピューターに落とし込みミシンを動かしたが、糸の張り方や針を刺す場所がわずかにずれるだけで、いびつな玉になってしまう。半年以上試作を繰り返し、どうにか販売できる出来栄えにこぎ着けた。

 13年には念願だった絹糸での玉の作製にも成功。展示会で発表すると次々と商談が成立し、百貨店などでも販売されるようになった。購入客からは「金属アレルギーなので糸のアクセサリーはありがたい」という声もあり、想定していなかった魅力も分かった。商品のバリエーションは増え、今では会社の利益の3分の1を占める事業に成長した。

200年企業へ

 他社にない高い技術力による刺しゅうアクセサリーで名を広めた笠盛。140年以上続く老舗に新たな風が吹いている。

 21年夏にはトリプル・オゥの事業拡大も見越して新たな生産拠点「カサモリパーク」を本格稼働させた。地域貢献の一環で地元の人が集う場所にしたいと「パーク」と名付けた。情報発信にも力を入れており、最近はトリプル・オゥの担当社員がSNSの生配信に挑戦している。

 19年には初めて創業家以外から社長が抜てきされた。中途採用で入社し、営業部門が長い桜井理社長(53)は「急に指名されて驚いたが、笠盛が好きという気持ちで頑張ってきたことを見てもらえたのかなって」と笑う。

 若手社員の活躍も目覚ましい。優れたデザインの商品を選定する本年度の「グッドデザインぐんま商品」の大賞に刺しゅう技術を凝縮したマスク「FACE DRESS」が輝いた。デザインしたのは入社間もない牛込圭哉さん(32)。牛込さんは「昨年8月に入社したばかりの自分にチャンスを作ってもらえた」と喜ぶ。

 「私は失敗ばかりしてきた。それでも今がある。私も若い人たちが失敗できる環境を残したい」。笠原康利会長(74)は自分で問題を見つけ、解決できる人を「笠盛人」と定義し人材育成を重視。200年企業を目指して、新たなアイデアが実現できるよう見守る。笠盛人たちの挑戦が続く。

取材後記 全員が「社長」に

 記者もトリプル・オゥのブレスレットを愛用する。金属製ほど硬い印象にならず、糸ならではのカラフルな色を楽しめる。

 「伝統は挑戦と革新の連続」と話す笠原会長の次の願いは「社員全員が会社の社長を務められる人材になること」。主体性と人間性を伸ばすため「笠盛人の日」と称した研修会を開いている。

 みずみずしい発想力と高い技術力で、これからも日常を彩る製品を生み出してほしい。一人のファンとしても楽しみにしたい。

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