私が織物に魅了されたのは耐久性が高い布構造だからです。例えばジーンズやタオル、カーペットなど耐久性が求められる生地は織物でできていますし、頑丈な建造物のためにも織物構造が使われます。耐久性が高く、長く使えるので環境にも優しい。私たちの生活に織物はなくてはなりませんが、その存在はさりげない。織物自体のそんな謙虚な役回りにも魅力を感じています。

 実は織物を作るには、糸作りから始まる果てしない工程があります。そこには人の手と感覚による技術が欠かせません。気温や湿度によって糸の質は変わるので、毎日必ず微調整が行われます。一つ一つの手作業を効率良く動かすためには、それぞれの工程の工場が近くに存在し、互いに助け合えるコミュニティーが必要です。

 桐生は特に小さな工場がたくさん集まって形成されている繊維産地です。こんなに工場が残っている地域というのは世界中を見ても珍しく、とても貴重な存在です。欧州の繊維関係者と話すたびに、「日本は工場を残していて素晴らしい。それは簡単なことではないよ。私たちの国ではもうなくなってしまったから」と言われます。

 しかしながら日本の繊維業は衰退産業です。この数年でたくさんの工場や客先の倒産と廃業を目の当たりにしてきました。その大きな原因は、海外製の安価な繊維製品が市場の大部分を占めていることにあります。昔は質の悪いものも多かったようですが、最近は安価でも耐久性の良い海外製品が増えてきました。今や日本製だけが高品質と言い切れないのです。だからこそ、私たちが存在し続けるためには、社会の中でどんな役回りをすべきか再考していく必要があると考えます。

 繊維工場は安い工賃でたくさんの量を売ることで初めて利益が生まれます。逆に言うと、量がないと利益が出ない仕組みです。生地が高くなるとそれを使った製品の値段が上がってしまいます。そうすると売りづらいので、生地値は基本的に低く設定されます。しかし前述のように、1枚の織物を織るのには多くの人の力が必要です。その人たちにきちんとした賃金を支払う必要があるため、生地値をどこまでも安くすることはできないのです。

 まずはこの事実から見直していく必要があるでしょう。ものづくりの必要最低限の報酬を「高い」と定められてしまわないように工夫した販売方法が必要で、その一つがファクトリーブランドの運営です。この点については次回以降、述べたいと思います。

 強くて優しい存在である織物。それを作る産業の中には人の温かさが存在しています。その温かさを守るためにも、この先も産業として生き残るためにできることを日々探らなければなりません。

 【略歴】国内外の大学でテキスタイルを学び、桐生市の織物メーカー、桐生整染商事に入社。シルクに特化した自社ブランドを立ち上げた。川崎市出身。多摩美術大卒。

 2022/3/20掲載