各地の文化や伝統を発信しようと、文化庁は2015年度に「日本遺産」の制度を創設した。1回目に本県の「かかあ天下-ぐんまの絹物語-」を含む18件が認定された。このうち関東以北のものは本県を含め2件のみ、16件が関東より西のものだった。

 同様のことは前にもあった。「重要伝統的建造物群保存地区」という文化財がある。伝統的な街並みや集落などを選定し、保存・活用する制度である。06年に本県で初めて選定されたのが中之条町六合赤岩地区だ。この時点で全国78カ所のうち、関東地方以北は9カ所、他の69カ所は関東より西だった。

 なぜこんなに西に遍在するのか。要因はさまざまあると思うが、私は東日本各県の県民気質も影響しているように思えてならない。全国の文化財担当者が集まる会議で、関西の担当者が「関西人は新しい制度ができたり、地域のことを褒められたりすると『じゃあやってみるか』という気になる傾向が強い」と話してくれた。

 これに対し、「この辺は何もなくてさ」「たいしたものじゃないけど」というのは県内でよく耳にする言葉である。県内でスポーツの全国大会が開かれた際、有力選手が名物を食べに行こうとタクシーに乗ったところ、運転手さんが「値段が高くて、そんなうまいものじゃない」と話し、選手がそれをSNSで発信したことがあった。この運転手さんは謙遜して話したのだろうが、この謙遜が魅力の発信には強敵なのである。

 身近なもの、毎日目にするものの価値に気付くことは難しく、外から来た人に褒められて気付くことが多い。ところが、本県をはじめ東日本の人は「そんなことないですよ」と謙遜することが多いように感じる。新しいことに慎重な傾向も、関西の人より強いのではないだろうか。この謙遜や奥ゆかしい性格がチャンスを逃すことにつながっているように思う。

 私たちの周りには地域の誇りとして守られてきた建物や祭り、遺跡、樹木など、もっと高い評価を得られるのに埋もれているものが数多くある。これらの中には、文化財として指定されないと消滅や継承が危惧されるものが少なくない。文化財に指定され、注目度が上がったり、支援を受けられたり、その準備の過程で所有者や地域の人たちが価値に気付くことによって保存や継承につなげられた例をいくつも見てきた。

 新しいことへの挑戦にはそれなりの時間と労力が必要になる。しかし、「奥ゆかしさ」を脱ぎ捨てて褒められたら誇りに思い、それを生かす道を探ってみる。新しいことでもまず一歩を踏み出し、前に進みながら考えてみる。これが地域の誇りを魅力に変え、新たな価値を創造し、それを生かした地域づくりの出発点になるのではないだろうか。

 【略歴】県内小中学校勤務後、県立歴史博物館学芸員など25年にわたり文化財分野に携わる。元県文化財保護課長。2021年4月から現職。国学院大学史学科卒。

2022/3/23掲載