婚姻関係(事実婚含む)にある男女間の暴力をドメスティックバイオレンス(DV)と呼ぶことはご存じだろう。内閣府男女共同参画局が2020年に実施した「男女間における暴力に関する調査」によると、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)」について、「内容まで知っている」という人と「法律があることは知っているが内容は知らない」という人を合わせ、9割近くがDV防止法を認知している。

 DVには、殴る・蹴るなどの身体的暴力、怒鳴る・見下すなどの精神的暴力、性行為の強要や避妊に協力しないなどの性的暴力、お金を渡さない・働くことを禁じるなど経済的暴力、外出や人間関係を監視・制限するといった社会的暴力、子どもに暴力をふるったり暴力行為を見せたりする子どもを使った暴力―などがある。

 男性も同性間でも被害を受けているが、調査では女性の方がより深刻な暴力被害に遭っている現状が示された。既婚女性(事実婚・別居・離死別含む)のDV被害経験は4人に1人、そのうち「命の危険を感じた」人が2割近くにも達するほどだ。命の危険を感じる暴力とは、被害者本人には予測も回避もできない、自分が死ぬかもしれないと思うほどの激しい暴力のことである。

 なぜ暴力的な関係に至るのか。そこには加害者側の相手に対する「支配の構造」が隠されている。

 加害者にとって相手は自分よりも「下」で、「ちっぽけ」な存在として映っている。そのため、自分が何よりも優先されるべきだという「特権意識」が芽生え、相手が自分に従うのが当然だという「支配意識」が働くようになる。要求は次第に大きくなり、相手が従わないと自分がないがしろにされたような気持ちになり、多様な暴力の形態を取ってエスカレートしていく。

 加害者側は自己の暴力を矮小(わいしょう)化する傾向が強く、また外づらがいいことが多いため、周囲からの理解が得られないこともしばしばだ。また、被害者側の落ち度を問われる場合も少なくない。被害者はどうにもできない中、心に傷を抱えて無力感のジレンマに陥ってしまう。

 加害者による被害者の「支配の構造」は、今回のロシアによるウクライナ侵攻に似ている。「特権意識」を持った大国が、相手国をちっぽけな存在として見下し、暴力的手段を背景にして「言うことを聞かせる」構造である。それにより、子どもや女性をはじめ多くの尊い人の命が脅かされている。

 国連の世界人権宣言は、「すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である」「すべて人は、生命、自由及び身体の安全に対する権利を有する」と述べる。今こそかみしめたい言葉である。

 【略歴】岡山県の養護学校や岡山市男女共同参画相談支援センター、香川大特任教授を経て2014年から群馬大講師。デートDV防止全国ネットワーク理事。東京都出身。

2022/4/1掲載