雪に覆われたアヤメ平に立つと、右手に燧ケ岳、左に至仏山が迫る。

 青天の3月25日、群馬県片品村の富士見峠からアヤメ平に登った。眼下には雪解けを待つ尾瀬ケ原。大雪原の上で、人だけが豆粒のように小さい。

アヤメ平からの眺望。右手に見えるのが燧ヶ岳

 群馬、福島、新潟、栃木4県にまたがる尾瀬国立公園が誕生して8月で15年を迎える。豊かな水をたたえ、さまざまな表情を見せる尾瀬。折々の姿と、自然とともに生きる人たちを紹介する。

 

 片品村や村観光協会が「冬の絶景プレミアムツアー」のコース確認を兼ねた関係者向けツアーを開いた。ツアーは、雪の尾瀬を一般の人にも楽しんでもらうと、片品村戸倉の住民やスキー場関係者、ガイドらでつくる尾瀬アウトドア振興会が来年2月から開催を計画する。

晴天に恵まれたツアー

 この日の案内役は日本山岳ガイド協会の認定登山ガイド、沼野健補さん(47)=同村東小川。麓のスノーパーク尾瀬戸倉(標高約1200メートル)で、圧雪車の後部キャビンに乗り込んだ。サンルーフや窓から心地よい風が入り、ブナやダケカンバを間近に見られる。

雪をかきながら進む圧雪車

 開けた田代原(たしろっぱら)で雪原に降り小休止する。気温は12度。北側を見上げると、これから向かうアヤメ平の尾根端の雪庇(せっぴ)が張り出していた。

 富士見峠(1883メートル)では閉鎖した旧富士見小屋が雪に埋もれていた。2階建ての大きな山小屋だが、見えているのは片側の屋根部分のみ。雪面が盛り上がっているのが分かる。ツアーではこの周辺で、雪のテーブルを作り、ホットサンドを焼き、スープを作って昼食を楽しむ計画だ。

雪に埋もれる旧富士見小屋

 ここからスノーシューを履きアヤメ平へ。すぐに「鏡池」と呼ぶ池塘に出た。木道がなく夏は立ち入れない所も、厚い雪の上は散策できる。 

スノーシューを履いてアヤメ平を目指す。背景に燧ケ岳(右側)など山々が広がる

 燧ケ岳(2356メートル)や景鶴山(けいづるやま)、平ケ岳など2000メートル級の山々を望み、眼下には尾瀬ケ原。東日本最高峰の日光白根山(2578メートル)は雪を頂く。

アヤメ平へ向かう途中、尾瀬ヶ原が望めた
日光白根山

 池塘から林間を進むと、田代原で見上げたアヤメ平の雪庇が現れた。日本一といわれる守門岳(すもんだけ)の大雪庇にも引けを取らない姿を間近に見ることができる。分水嶺で雨が日本海と太平洋に分かれて流れ出す。ガイドの沼野さんは「(分水嶺の北にある)尾瀬ケ原に降った雨は新潟側に流れ出す。だから僕は新潟県の魚沼の日本酒が好きです」と話す。 

アヤメ平の巨大な雪庇
スノーボードで斜面を滑り降りるガイドの沼野さん。スノーボードやスキーで滑り降りるツアーも想定している

 自分たちが立つ位置も雪庇に続く場所にあり、軽い恐怖心を覚えた。沼野さんは安全に注意する場所としたうえで、「死を感じさせる所なので、逆に生きていることを実感できる」という。

 この一帯は秋の紅葉も素晴らしく、ナナカマド、ダケカンバ、ウルシなどが赤や黄に染まるという。

 さらに一登りで「天空の楽園」ともいわれるアヤメ平に着いた。真っ白な至仏山と、360度の大パノラマに「最高!」という声が上がった。

 1年の半分以上を雪に覆われる豪雪地帯の尾瀬。その雪が解け、豊かな水をたたえる。そして短い間にミズバショウ、ヒツジグサ、ニッコウキスゲといった花を湿原に咲かせる。そんな尾瀬を折々に訪ね、紹介していきたい。

【メモ】富士見峠(標高1883メートル)は、尾瀬ケ原に入る片品村側3峠の中で最も高い位置にあり、富士山を望むことができる。1960年代に鳩待峠(1591メートル)に通じる車道が開通するまで、駐車場がある富士見下が尾瀬の主要な登山口だった。
 

 アヤメ平は両峠を結ぶ尾根筋に開けた湿原。鳩待峠側の開通と前後して急増したハイカーが湿原を踏み荒らし、泥炭が流出した。その後、県などの調査保護活動が進み、植生が回復してきている。