奈良時代に中国から伝来した豆腐は、長い年月をかけて各地に広がりました。今や全国どこでも手に入りますが、その姿は画一的ではありません。日持ちも短く地域の中で消費されてきたため、その土地の風土や気候、食文化を反映しながら根付きました。
取材で各地の製造現場やスーパーなどを調査していると、大きさや硬さ、形状に地域性があることに気付きます。例えば、1丁と言っても重量や大きさに決まりはなく、正方形、長方形、薄いものからサイコロのような形などさまざまです。1丁の重さは首都圏は平均350グラム程度ですが、沖縄ではなんと1キロもあります。それぞれの地域の人が想定する「1丁」が異なることに驚きました。
独自の硬さを持つといえば、富山、石川、福井の白山麓一帯に見られる「固豆腐(堅豆腐)」があります。木綿よりもはるかに硬く、大豆がぎっしり詰まったような重厚感があります。雪深い地域では冬場に確保しづらい肉や魚に相当するタンパク源として重宝し、縄で縛っても崩れにくく山道でも運びやすかったようです。この地域で固豆腐を作り続ける豆腐店の店主は「高校進学で金沢に出るまで絹豆腐を知らなかった」と言います。生まれ育った土地を離れて味わったカルチャーショックとも言えます。
一方、京都を訪ねると、軟らかくみずみずしい豆腐が多いことが分かります。川端康成が『古都』で、嵯峨の老舗豆腐店の豆腐を「箸にもかからぬ」と描写するほどの軟らかさです。断面がざらっとした木綿豆腐を見かけることはほぼなく、「ソフト木綿」と言われる、表面は木綿のような布目があり中は絹のように滑らかなものが主流です。
多くの老舗豆腐店では、にがりの代わりに「すまし粉」と呼ばれる凝固剤を使い、保水性に優れ崩れにくい豆腐を作っています。料理の土台であるだしとの調和を重視するため、大豆の風味を主張させ過ぎないさっぱりとした味わいに仕上げるのが伝統です。
地域独自の加工品もさまざまです。保存性を高めるために、先人たちは豆腐をわらなどで包んでゆでる、漬ける、いぶす、乾燥させるなど、あの手この手で加工してきました。鳥取の中東部では、貴重な魚のすり身を節約するために江戸時代に編み出された「豆腐ちくわ」が、今でも市民のおやつやおつまみとして親しまれています。高知県で見られる、水気を切って梅酢に漬け込み、鮮やかなピンク色に仕上げた「豆腐の梅酢漬け」などもユニークです。
地域独自の豆腐を食すことで、各地で脈々と受け継がれてきた食文化に触れることができます。最近は取り寄せ可能なものも増えています。それぞれの豆腐の背景にある歴史や文化、人々の営みを想像し、奥深さを改めて感じてほしいと願っています。
【略歴】幼少期から豆中心の食生活を送り2013年に豆腐マイスターの資格取得。執筆活動・メディア出演などを通じて豆腐の魅力を伝える。前橋市出身。立教大卒。
2022/4/9掲載