《探る 考える 農業の担い手(上)経営安定》先端技術導入に活路 個人経営6割 65歳以上
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農業経営体数の推移
田植えの準備をする元気ファーム20の従業員
農業での活用が進むドローン
環境制御技術でキュウリの増収に取り組む実証農場=前橋市

 農業者の減少が止まらない。農業に取り組む家族やグループ、法人を表す「農業経営体」は2010年からの10年間に全国で35%以上減り、本県では38%近く減少した。高齢化が同時に進み、県内の個人経営の農業者の6割近くが65歳以上で、その割合はこの10年で10ポイント以上増えた。担い手確保が課題となって久しいが、経営規模を拡大したり、先端技術を取り入れたりして活路を見いだし、農業の将来を見据える人たちがいる。

◎経営体減少
 農林業センサス(農林水産省)によると、2010年に167万9千あった全国の農業経営体は20年に107万6千まで減った。わずか10年で、3分の2以下になった計算だ。本県では10年の約3万3千が20年に約2万となっており、減少率は全国平均を上回っている。
 一方、1経営体当たりの耕地面積は増加傾向が見られ、全国平均は10年に2・2ヘクタール、20年は3・1ヘクタールだった。農業経営体が減り続ける中でも日本の食料自給率は10年が39%、19年が38%と同水準が保たれており、規模拡大による生産の維持がうかがえる。
 高齢化も進む。本県の農業従事者に占める65歳以上の割合は20年が57%。10年は44%だった。
 農業者が減少し続ける理由として、県やJA群馬中央会をはじめとする関係団体、多くの農家が指摘するのは、収入の問題だ。農業収入だけで生活できない場合、家族が別に就労することで家計を補う必要に迫られる。若者がいても、農業を引き継ごうという気持ちも起こらないだろう。

◎規模の拡大
 農業所得を高める方法の一つに規模の拡大がある。高崎市で米麦を生産する専業農家の関口直樹さん(39)は現在、22・6ヘクタールで耕作する。専業農家になったばかりの14年ごろは3ヘクタール程度だったが、7年間で7倍以上に拡大した。近年は高崎市中川地区を中心とする農家から耕作を依頼され、引き受けるケースも多くなっている。
 共通の友人がいた東吾妻町の牧場から牛ふん堆肥の提供を受け、食味を高めて他と差別化し、収益を高めている。「農作業が大変でもうからなければ、後継者は現れない。収入ややりがいで、いかに魅力を感じられる仕事にするかが大切」と関口さんは説明する。
 後継者については、「誰がなっても構わない」との考えから、商号に自身の名前を入れず、「大八木ライスファーム」としている。
 前橋市の農事組合法人「元気ファーム20」は法人化することで規模拡大した。同市西善町を中心に、150ヘクタールで米麦などを栽培している。兼業農家が多く、後継者がほとんどいなかった地域。農業を続けるため、従業員を雇用することにしたという。
 14年ごろから県立農林大学校を卒業した若者ら5人を採用。体力ややる気などの面から厳選していることもあって、離職者はいないという。組合員の農家と合わせて常時10人ほどで仕事をしている。代表理事の関根正敏さん(47)は「地元の人だけでやっていくのはもう無理だろう。外から入って来てもいいのではないか」と主張する。その上で、「普通のサラリーマン以上の年収が得られれば、農業をやりたいと思える経営になる」と強調。今後は単位面積当たりの収量増を目指すとしている。
 増収には、作物の生産に加えて加工、販売まで行う「6次産業化」も有効だとされる。付加価値を高めて事業を軌道に乗せるために、魅力ある商品作りと販路の開拓が鍵となる。
 渋川市赤城地区でソバの二期作を手掛ける「赤城深山ファーム」は自社で生産したソバをそば粉に加工し、販売している。6次産業化を支援する国の制度を活用するため、13年に株式会社化した。
 もともと都内の製粉会社との間で契約栽培をしていたが、値段で折り合えなくなった。だが、高井真佐実社長(70)に都内でそば店を経営した経験があり、ニーズを理解していたこと、そば店との付き合いがあったことなどから売り上げを伸ばすことに成功。会社設立時に130ヘクタールだった栽培面積は245ヘクタールまで広がった。

【大規模化へ先進技術駆使】
◎スマート農業で省力化
 農業の大規模化は、省力化なくして成り立たない。コメを例に挙げれば、田植えはかつて、家族総出で手作業で行っていた。今では1度に10列植えられるような田植え機が登場。稲刈りも1度に6列刈り取って脱穀、選別まで行えるコンバインがある。個人経営でも20ヘクタールを超える土地で栽培できるようになった。近年は人工知能(AI)や情報通信技術(ICT)を駆使したスマート農業が登場し、省力化はさらに進む。
 代表格は小型無人機ドローンだ。米麦のように広大な土地で作付けする「土地利用型」の作物で広範囲に薬剤が散布できたり、生育状況を確認できたりと、さまざまな活用が期待されている。ただ、初期投資が課題となる。現段階では、個々の農家が購入するより、専門業者に依頼するケースが多いとされる。
 高崎市でドローンを活用したサービスを提供する「THREE PEAKS」によると、機体の価格は割安なタイプで約50万円。性能を追求すると、200万円する機体もある。予備のバッテリーや事前講習費用を含め、スタート時に300万円程度が必要になるという。
 風のない時間帯を狙って飛行させ、約30ヘクタールの農地で予備日も含めて5日あれば薬剤散布などの作業が終えられる。だが、1年間に数日程度しか利用しないとして、購入をためらう農家が多いのが現状。同社の木下智弘社長(48)は「面積を増やしても、ドローンを使えば作業時間を短縮できる。(スマート農業が)国策でもあり、今後はもっと浸透するだろう」と強調する。
 栽培管理にも先進技術が活用されている。JA全農は今春、AIを活用した栽培管理支援システムの取り扱いを始めた。土壌や作物の品種特性、気象情報、人工衛星からの画像をAIが分析し、パソコンやスマートフォン、タブレット端末からリアルタイムで生育状況が確認できる。病害虫の発生を予測し、警告する機能も備えている。ほ場は地番ごとに生育予測が可能だ。
 現在、コメとダイズで利用できるだけだが、全農は他の作物にも広げていきたい考え。全農ぐんまは本県で栽培が盛んなムギにも利用できるよう、県と協力してシステム試験を進めている。
 畜産の分野では、牛に脱着できる端末を付け、体調管理ができる装置などが開発され、導入されている。

【増収支える環境制御技術】
◎実証農場 収穫2倍達成
 農業所得の向上には、栽培面積を増やす規模拡大のほか、単位面積当たりの収穫量を増やす方法もある。
 ビニールハウスや温室の中で野菜や花などを栽培する施設園芸では近年、環境制御技術が注目されている。室内の二酸化炭素(CO2)濃度や湿度、温度を作物に最適な状態に保つことで光合成を促し、収穫量を上げる手法だ。人工知能(AI)や情報通信技術(ICT)を活用した機器も実用化され、採用する農家も増えている。
 本県ではキュウリやトマト、イチゴといった品目で採用されるケースが多い。県の2024年度までの5カ年計画「『野菜王国・ぐんま』推進計画2020」でも積極的な技術の導入、普及が推奨されている。
 JA全農ぐんまが16年に建設した園芸作物生産実証農場(前橋市江木町)は、CO2などを制御するキュウリ増収技術の有効性を確かめながら、普及に向けて栽培を続けている。この技術はもともと、県農業技術センターが研究していた。
 実証農場のキュウリハウスはCO2や湿度を自動で調節するほか、AIを活用してかん水と施肥を自動化した設備も設置。19年には、促成栽培と抑制栽培を組み合わせ、県が栽培に関して示す目安の2倍に相当する10アール当たり41・5トンの収穫を達成した。
 就農希望者も受け入れ、人材育成にも努めている。現在、2人の就農希望者が働いており、環境制御技術を活用した栽培に意欲を示しているという。
 環境制御技術は近年ハウス内の環境情報をスマートフォンやタブレット端末、パソコンを通じて離れた場所からでも確認できるほか、遠隔で装置が操作できるようになるなど機能が高まっている。スマート農業の一つに分類されている。
 ただ、装置をそろえるには多くの資金が必要で、「一般的な農家が導入するには現実的ではない」との指摘がある。広く普及させるには、農家を支援する態勢づくりも求められる。

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