《探る 考える 農業の担い手(下)人材確保》将来型 対応力高める ICTや経営 知識習得
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県内の若手新規就農者
農業ICTの時間で、センサーを組み立てる生徒=中央農業大学校
地元の新鮮な野菜などが並ぶ道の駅「こもち」
渋川支局 奥木秀幸

 人工知能(AI)や情報通信技術(ICT)を駆使した資機材や設備を積極的に活用することにより、農業は“少数精鋭化”が進みつつある。この傾向は今後も続くとみる関係者は少なくない。ただ、大規模化、法人化を推し進めても、時代に即した経営を行い、次世代につないでいくことは大きな課題だ。予測が難しい変化に柔軟に対応し、未来を担う人材をいかに育て、定着させるか―。教育機関を含めて幅広い取り組みが展開されている。

◎センサー自作
 農業従事者数が急速に減り、1経営体当たりの平均耕地面積が増加の傾向を示す中、全国に現在、136万人いる農業従事者が将来的に10万人に激減、1経営体当たりの平均耕地面積は3ヘクタールから19ヘクタールに巨大化するとの試算がある。こうした状況になった場合、前橋市南町の中央農業大学校(木村剛校長)は農業の将来像を次のように予測する。
 「日本では1ヘクタールでもほ場が数カ所に分かれてしまうケースが多く、19ヘクタールにもなると数十カ所以上となり、1人では管理しきれなくなる。この状況では畑の位置や作物の生育状況、作業日誌といった情報をクラウド上に保管し、作業員が共有する仕組みが必要。また、果樹や野菜などは温度や湿度を制御して糖度を高めるといった工夫を凝らし、売り上げを伸ばすようになる」
 将来型の農業に対応できる人材を育成するため、同校は通常の栽培管理だけでなく、情報系の知識を習得する時間も設け、昨年からセンサーの組み立てや活用法を学ぶ「農業ICT」の授業を行っている。
 このセンサーを用いることで、温度や湿度を定期的に観測し、データを把握できるようになる。市販品を購入すれば1台でも数十万円かかるが、部品から自作すれば数万円程度で用意できる。故障しても自分で修理でき、経済的だ。
 1年間の受講を経て、実際にデータを測定し、グラフに加工する生徒もいる。同校は「自分で作って活用できる人材に育ってもらえるといい」と期待を寄せる。企業と協力しながら商品開発を進めるなど、6次産業化についても学んでいる。
 県内の大学で農学部を唯一設置する高崎健康福祉大(高崎市中大類町)は、時代の変化に対応して多面的に考え、将来を切り開くことができる人材の育成を目指す。「生命科学」「作物園芸システム」「フードサイエンス」「アグリビジネス」の4コースを設けているが、専門以外も横断的に学べる環境を整え、総合的に考える能力を高める後押しをする。
 最先端の取り組みを紹介しながら、農業経営と向き合う機会を提供する。例えば、オランダで行われている花の大規模栽培では、個人の農家が数十億円を投資して栽培の大半を自動化する装置を導入。政府からの補助金もなく、ビジネスとして成立させている―という事例などだ。
 大政謙次学部長は農業を観光資源にする「グリーンツーリズム」の有効性も指摘し、「新しいものにも抵抗感なくチャレンジし、将来をけん引してほしい」と願っている。同学部ではドローンの活用や、環境制御の施設園芸といったスマート農業に加え、6次産業化にも対応できる人材育成に努めている。

◎自動制御
 農業人材の育成では、100年の歴史を持つ伝統校、県立農林大学校(高崎市箕郷町西明屋)もある。社会人が対象の1年コースから高校卒業者が対象の2年制、就農希望の社会人に対応する「ぐんま農業実践学校」と幅広く受け入れ、生産技術の習得を支援。例年、120人ほどを生産現場に送り出している。
 「農家の子どもは両親から新しい技術を習得するよう期待されて入学してくるケースもある。実家の経営を改善させた事例もある」(藤井俊弘校長)といい、生徒に積極的に新しい生産技術を紹介している。2019年には温度や湿度、日照時間などを自動制御する園芸施設「ぐんまイノベーションファーム」を稼働させた。
 農機具メーカーや公務員、JAといった関連の仕事に就職する卒業生も多いが、新しい技術への知見はどんな職場であっても、将来の農業をけん引していくために必要だ。

【直売所の役割】
◎販路確保し「農業守る」
 農畜産物直売所には、地元で取れた新鮮な野菜や果物が豊富に並ぶ。大きすぎたり、小さかったり、形がふぞろいだったりするかもしれないが、スーパーマーケットの品より鮮度や味で上回り、手ごろな価格で購入できるケースが多い。中には根強いファンが付き、行列ができる生産者もいるほどだ。
 そんな直売所は生産者と消費者の交流を促すだけでなく、農業を維持する役割も担っている。
 国道17号に面し、県内外から多くの行楽客が立ち寄る渋川市の道の駅「こもち」。この時季はトマトやキュウリ、ナス、イチゴ、ウメのほか、ビーツ、ジャンボニンニク、タマネギ、キャベツ、ズッキーニと幅広い作物が店頭に並んでいる。
 常時約80人が出荷し、およそ9割は兼業の小規模農家だという。年金を受給しながら生きがいで農業を続けている高齢者も多い中、イチゴを手掛ける若い専業農家も出荷している。
 同施設は、誕生から今年で20年。高齢を理由に引退する農家が多い半面、定年退職後に自宅の農地を生かして就農し、直売所への出荷を始める生産者も少なくない。店頭の品数を維持していく上で、農業に携わる人が一定数いるのは明るい材料だ。
 各地にある直売所の多くは、メンバーになっている農家が直接搬入し、自身で値段を付けて販売する。市場出荷と比べ、卸業者や仲卸業者が仲介しない分、農家が単位数量当たりの手取りを大きくできる利点がある。大規模化していなくても、工夫次第で収入を高めていくことが可能だ。
 JAの中には、こうした直売所の特徴を意識して店づくりをしているケースも目立つ。JA佐波伊勢崎は中小規模の生産者の販路確保と位置付けて、「からかーぜ」(伊勢崎市田中町)をはじめ、県内JAで最多の6店舗を運営している。
 「大規模な専業農家でなくても、地域に潜在する多様な生産力を生かして農業を守る」とし、JA甘楽富岡は食彩館(富岡市富岡)のほか、都心のスーパー内直売店舗「インショップ」事業を展開する。JA邑楽館林の「ぽんぽこ」(館林市楠町)は規模の大小を問わず、多様な生産者がこだわりの作物を常時、豊富に並べることで、県外からもリピーターを集める県内有数の人気店になっている。

【就農希望者への支援】
◎年350人相談 栽培講習会も
 県は農業構造政策課をはじめ、各地の農業指導センターなどに就農相談窓口を開設している。同課によると、窓口に相談に来る人は年に350人程度。1人で何度も訪れるケースもあり、相談回数は計400~500回に上る。
 農業指導センターに相談する人は、品目を決めるなど明確なビジョンを持っていることが多く、県は有力な産地を紹介するなどして就農につなげている。相談者は20~40代がメインで、特に30代が多い。関心があるものの、「何から始めたらいいか分からない」との相談も少なくないという。
 県内の新規就農者は、45歳未満が2019年度に170人、20年度に173人だった。45~64歳も一定数いて、19年度は57人、20年度は50人。同課は「職業として考える人は、30代を中心とする若年層に多いのではないか」とみている。
 一方、各地のJAは就農希望者向けの栽培講習会を定期的に開催。栽培技術のほか、土づくりや農薬、簿記の基礎知識についても伝えている。JAには金融部門もあることから、日本政策金融公庫やJAグループなどの資金を活用し、就農希望者を資金面でも支える仕組みを持っている。

【視点】渋川支局 奥木秀幸
◎就農のハードル下げて
 農業の担い手が減少する背景について、多くの人が労力と収入のアンバランスを指摘する。作物の生育は天候に左右され、相場が変動するリスクがある。
 そんな中でも、事業として成立させている生産者は規模拡大や差別化を進め、付加価値を高めるなど工夫を凝らす。取材を通じ、農業にはまだ可能性が詰まっていると感じた。
 かつて手作業だった米麦の収穫や除草作業は、農機を使うことで労力が大きく軽減された。今や人工知能(AI)、情報通信技術(ICT)の活用で操縦まで自動化されようとしている。今後はさらに、農家1人が担う面積が広がっていくだろう。
 農機にしても環境制御装置にしても、導入には数百万円からの資金が必要。小規模からステップアップしていくには長い道のりだ。とはいえ、行政やJAが設備までそろえて就農希望者を募るのは限界がある。
 だが、例えば行政主導で遊休農地を活用し、水田なら10ヘクタール、施設園芸なら1ヘクタールなど、まとまった土地を新規就農を希望する人に提供するのはどうだろう。ある程度の収入が見込めれば、就農へのハードルは下がるのではないか。技術的な支援を含めて可能性を広げ、不安を取り除く仕組みづくりが必要だ。

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