2019/02/24【三山春秋】土色をした布製の表紙には、本物…
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 ▼土色をした布製の表紙には、本物の豚の鼻が押されていた。前橋市粕川町の詩人、真下章さんの第1詩集『豚語とんご』が出版されたのは、今から40年前の1979年のことだ

 ▼発行所は真下さんが当時400頭を超える豚を飼育していた赤城山南麓の養豚場「おんばこ農場」。収録された25編はすべて豚の詩である

 ▼〈さあ/これで一対一だ(略)下着を脱いだら/パンツもだ//みんなだ/そうだそれでいい/そしたら四つんいになって/ブウー/と ひと声ってみろ//俺とおんなじじゃあねえか〉

 ▼豚と自分を重ね合わせた表題作は、利便性、経済性ばかりを追い求めて本来の生き方を見失った人間、社会を痛烈に批判している。「神サマ」と呼ぶ発育不全の豚の生命への痛切な思いを込めた散文詩が軸となった第2詩集『神サマの夜』(87年刊)は、優れた現代詩集に贈られる H氏賞を受けた

 ▼以後も詩とともに、独学で習得した木版画や書に取り組んできた真下さんが今月、89歳で亡くなった。取材でお会いするたびに、飾りのない誠実な言葉、本質を捉える確かな目にはっとさせられたことを思い出した

 ▼久しぶりに類例のない豚の詩集を読み返し、温かみのある木版画の世界にも触れた。その底にある批評精神はより一層力を増しており、今を生きる私たちに警鐘を鳴らし続けている。

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