2019/04/16【三山春秋】落語「井戸の茶碗」は清廉な武士…
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 ▼落語「井戸の茶碗ちゃわん」は清廉な武士の間で翻弄ほんろうされる正直者のくず屋の姿が滑稽な人情話だ。まくらで屑屋のことをこう紹介する。「名前の通り屑だけ扱っていたんじゃ、うまい酒は飲めない。世間体をはばかるように小さな声で呼ばれる家に掘り出し物がある」

 ▼さる若きサラリーマン宅に出入りした屑屋が掘り出し物に当たったかは分からないが、奇妙な紙屑が不思議でならなかったらしい。「どうしてお宅の週刊誌には表紙がないのでしょう」。後に大川美術館(桐生)を設立した故大川栄二さんである

 ▼大川さんは戦後、長い闘病生活を送った。灰色の暮らしに明かりをともしたのが、週刊誌の表紙を飾った絵画。切り取り、スクラップ帳に貼って眺めた

 ▼働くようになると絵を買い集め、40点余りを壁に並べた。毎日眺め、飽きたら外していく。すると見るほどに良くなる絵があった。夭折ようせつの画家、松本竣介(1912~48年)の作品だった

 ▼竣介は戦争という暗い時代にあって、清潔な精神を塗り込めるかのような哀感あふれる絵を描き続けた。存命中は売れなかったが、温かな人柄が慕われた

 ▼大川さんは竣介を追い続け、影響を与えた画家の作品も集めた。コレクションを紹介する美術館は20日、開館30周年を迎える。竣介に焦点を当てた記念展には全国からファンが足を運んでいる。

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