2019/05/05【三山春秋】江戸後期の禅僧で詩人…
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 ▼江戸後期の禅僧で詩人、歌人の良寛に、こんな詩がある。〈生涯身を立つるに懶(ものう)く/騰々(とうとう)天真に任す(略)/何ぞ知らん名利の塵(ちり)…〉

 ▼ものにこだわらず自由で天然のままに、という円熟期の心境を詠んだものとされるが、『良寛』(唐木順三著)によれば、ここに至るまでの良寛に幾多の屈折があり〈屈折のもたらした襞(ひだ)によつて(略)幅を広くし、奥行を深くした〉という

 ▼日本の旧石器時代の存在を証明した「岩宿遺跡」の発見者、相沢忠洋さん(1926~89年)は、座右の銘としてこの作品を挙げ、「心荒れる夜など、この詩を口ずさんでいると心休まる」と吐露している(『「岩宿」の発見』)

 ▼今年、遺跡の発掘から70年を迎えるのに合わせ、相沢さんの業績や生涯を紹介する記念特別展が、みどり市の岩宿博物館で開かれている

 ▼相沢忠洋記念館との共催。発掘の契機となった槍先形尖頭器(やりさきがたせんとうき)をはじめ、石器や実測図、愛用の自転車、カメラなどから伝わってくるのは、在野の考古学者として苦難の道を歩んだ相沢さんのけた外れの情熱と遺跡に寄せる温かいまなざしである

 ▼相沢さんは同書でこうもつづっている。〈私の歩みはいまも、どこかに遺されたはずの祖先の一家団らんの場を求めている〉。逆境のなか、夢を追い続けた相沢さんの研究者としての幅、奥行きの深さがそこにある。

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