2019/07/25【三山春秋】
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 ▼奈良時代、光明皇后が東大寺に献納した正倉院(奈良県)宝物の「螺鈿紫檀五絃(らでんしたんごげん)琵琶」の複製品を宮内庁が制作、公開した

 ▼琵琶の復元と聞いて、「玄象(げんじょう)」「獅子丸」「青山(せいざん)」の三名器が浮かんだ。平安時代、藤原貞敏が唐から持ち帰ったとされ、逸話のみが残る

 ▼帰国の際、荒波を静めるため竜神に供え海の底に沈ませた「獅子丸」。腕前がふさわしくない奏者が弾くと一切音を出さない「玄象」。平家の平経正が愛用し、都を落ちる際に仁和寺の守覚法親王に返却した「青山」。いずれも行方は知れない

 ▼能「経正(つねまさ)」に、一ノ谷の合戦で亡くなった経正を弔う管弦講が仁和寺で営まれた折、灯火の陰に経正の霊が浮かび、仏前に置かれた「青山」を弾く場面がある。第一第二の絃(けん)は索々(さくさく)として秋の風 松を払って疎韻落つ 第三第四の絃は冷々(れいれい)として夜の鶴の 子を憶(おも)うて籠(こ)の中(うち)に鳴く

 ▼奏でられた「青山」は、経正の妄執を表すように激しく、悲しい。幻の音は余韻さえ響いてくるような美しい詞章(白居易『五絃弾』に典拠)から想像するほかない

 ▼復元された光明皇后献納の琵琶は、美智子上皇后が育てた日本純産種の蚕「小石丸」の糸が弦に使われた。よみがえった琵琶をぜひとも、現代の名手に奏でてもらいたい。きっと、きらめく螺鈿のような音が天上から降り注ぐだろう。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
関連記事