2019/10/10【三山春秋】〈鯰よ、/お前は氷の下で...
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 ▼〈なまずよ、/お前は氷の下でむしろ莫大な夢を食うか(略)私は彫りかけの鯰を傍へ押しやり、/研水とみずを新しくして/更に鋭い明日の小刀を瀏瀏りゅうりゅうと研ぐ〉

 ▼詩人、彫刻家、高村光太郎の詩集『智恵子抄』に収められた「鯰」(1926年)である。光太郎がこの詩とともに制作した生命感あふれる木彫小品「鯰」もまた、見るたびに強い感銘を受けてきた

 ▼伊勢崎市出身の鋳金工芸家、森村酉三(1897~1949年)の鋳金によるその作品を前にして浮かんだのは、光太郎の詩だった。県立近代美術館の企画展「没後70年 森村酉三とその時代」に展示されている最晩年の「鯰」だ。愛嬌あいきょうたっぷりの表情、伸びやかな尾の表現力に驚かされた

 ▼帝展で入選を重ね、本県の美術界の基礎を築いた功績を持ち、高崎の白衣大観音の原型を制作、前橋市の水道共用栓のデザイン、名士の胸像などを手掛けた人物として知られていた。しかし、それはごく一部だという

 ▼森村の全体像を紹介する同展では、県内外の施設や個人所有だった鳥や動物の置物などの 小品も多数集められた。小さな生き物に寄せる、温かみのある眼差しから、光太郎と重なる「詩魂」が伝わってくる

 ▼52歳という若さで亡くなったことなど、さまざまな理由で埋もれてきた森村の業績が正当に評価されるきっかけになればと願う。

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