2020/04/04【三山春秋】〈君がため春の野に出でて若菜つむ...
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 ▼〈君がため 春の野に出でて 若菜つむ わが衣手に 雪は降りつつ〉光孝天皇。万葉の昔から早春の野にえる若菜を摘んで食すことは邪気を払い、万病を防ぐ大切な行事だった。先の日曜日は季節外れの雪。和歌の世界もかくやと思われる景色が広がった

 ▼少し前まで枯れ野原だったのに、日ごとに緑が広がってゆく。春の七草ナズナも薬草。草木染に使うと淡いクリーム色になる

 ▼桐生市の重要伝統的建造物群保存地区で天然染色そめいろ研究所を開く田島勝博さん(77)が身近な薬草木を使い、77色の見本帳を完成させた

 ▼かつては化学染料で糸を染め、卸していた。だがいつしか寸分違わぬ色を再現するのではなく、自然から色をもらう草木染に引かれるようになったという

 ▼草木染の材料に薬草が多いことに気づいた田島さんは、先人の知恵を学びながら「一草木一色ひといろ」の染めを思い立った。しもやけや腫れ物に効果があるとされるユキノシタからは落ち着いたベージュ、整腸や下痢止めに効くというゲンノショウコからは深みのある灰色が浮かび上がった

 ▼田島さんは「草木の命が宿った布をまとうことで、日本人は古来、悪霊や病気から身を守ってきたのではないか」と語る。材料を煮出す工房には、なんとも言えぬいい香りが漂う。草木が秘めた物語。これからも少しずつひもといていくつもりだ。

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