2020/04/05【三山春秋】昨年2月に89歳で亡くなった...
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 ▼昨年2月に89歳で亡くなった前橋市粕川町の詩人、真下章さんの没後1年に合わせて出版された詩集『ゑひもせす』(榛名まほろば出版)を繰り返し読んでいる

 ▼〈あれはいい実にいい〉。真下さんが「そうだよな」という詩でたたえたのは、目覚めたばかりの子豚の小さな耳だ。陽の光に透けて、〈得もえぬ美しい血の色を広げて見せる〉とき、〈正に億年を生き続けてきたこの星のいのちの色が映る〉のだという

 ▼赤城山ろくで養豚業を営みながら、豚を題材にした詩を発表し、第2詩集『神サマの夜』(1987年)で優れた現代詩集に贈られるH氏賞を受けた。新しい詩集も豚の詩が軸だが、自身の生い立ちや家族、自然まで対象を広げ、文明社会の矛盾を浮かび上がらせている

 ▼もとになった詩集は、実は8年前に編まれている。自ら原稿用紙に51編を清書し、コピーして黒いひもでとじたうえで、知り合いの詩人たちに送った

 ▼部数は限られ、目にした人はごくわずか。これが詩業にふさわしい形だろうか。出版の相談を受けたことがある榛東村の現代詩資料館「榛名まほろば」館長の富沢智さん(68)が手を挙げ、遺族の了承を得て活字の出版物としてよみがえらせた

 ▼命への慈しみと、それを見失った人間の愚かさへの憤り。詩人が最後に私たちに伝えようとした痛切な言葉をかみしめる。

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