2020/04/20【三山春秋】上州に生まれ古里を離れて暮らす人々に...
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 ▼上州に生まれ古里を離れて暮らす人々にとって、「心の山」と言えばどんな山が思い浮かぶだろう。長い裾野を引く赤城山、奇岩織りなす妙義山。もしかしたら子どもの時に遊んだ里山かもしれない

 ▼旧群馬町出身の歌人、土屋文明にとっては朝夕に望んだ榛名山だった。〈青き上に榛名を永久とはのまぼろしに出でて帰らぬ我のみにあらじ〉。生前ただ一つ建立を認めた碑にはこの歌が刻まれている

 ▼県立文学館に請われ、開館当初から22年間ここで短歌講座を開いたのが歌人の三枝昻之さん(76)。初めて来館した際、榛名山との“対面”を心待ちにしていた

 ▼独立峰のような一つの山と思っていたが、職員が笑顔で「あの全部が榛名山です」と山の連なりを指さしたときは、イメージとの落差にがっかりしたという

 ▼だが折に触れて眺めるようになると、向き合うのが楽しみになった。〈まとまらぬ大きさとして立つ姿榛名山そして土屋文明〉。その山容は短歌結社「アララギ」を率いて膨大な歌を残した先人の姿に重なった

 ▼三枝さんが昨年上梓した歌集『遅速ちそくあり』に対し、歌壇最高の栄誉とされる「迢空ちょうくう賞」が贈られることになった。三枝さんは県立文学館で開いた講座を歌に詠んでいる。〈さまざまな人生が見え喜悲が見え月に一度のうた響き合う〉。受講生もきっと喜んでいるだろう。

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