202005/11【三山春秋】繰り返し読んできた文章が...
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 ▼繰り返し読んできた文章が、これまで以上に胸に響いた。元前橋市立図書館長で萩原朔太郎の資料収集・保存に努めた渋谷国忠さんの「朔太郎の詩的遺産摂取のために」(1961年発表)の言葉が頭を離れない

 ▼〈花を花として見るばかりでなく、それを咲かせた有機体のいのち全体の中で、その栄養のぐあいまでも含めて、その花をとらえなければならない〉

 ▼朔太郎研究のあるべき姿勢をこう説いたうえで、作品は〈時代をうつす鏡〉であり、詩人が生きた時代と社会、郷土との結びつきを徹底してとらえる必要があると強調した。世界的な詩業の本質を渾身こんしんの力で追究する意欲あふれる論考だ

 ▼執筆から2年後の63年、詩人の命日に当たる5月11日に前橋で初めて「朔太郎忌」が開かれた。準備、運営の全ての軸となったのが渋谷さんだった。記念講演などが大きな反響を呼び、翌年の2回目に合わせ朔太郎研究会が発足した

 ▼間もなく渋谷さんは亡くなるが、朔太郎忌は、その精神を継ぐ人々により改革を重ね、続けられてきた。ところが48回目となる今年、コロナ禍のため中止を余儀なくされた

 ▼あらゆる分野の事業が継続断念を強いられている。関わる人たちが積み重ねた努力を思うと、いたたまれなくなる。渋谷さんの気迫に満ちた遺訓は今、そんな危機の私たちを鼓舞してやまない。

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