2020/05/28【三山春秋】南牧村から長野県佐久市へ向かう…
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 ▼南牧村から長野県佐久市へ向かう峠道が始まる山あいに馬坂集落はある。かつて養蚕とコンニャク栽培が盛んで、川沿いのわずかな平地に家と白壁の蔵が肩を寄せ合うように並ぶ

 ▼右岸が南牧村羽沢、左岸が長野県佐久市田口。人家の多くは長野県側にあるが、同県から見ると峠を越えたずっと先にあり、まるで飛び地のよう。生活圏は群馬県で、子どもたちは南牧村の小中学校に通った

 ▼こんな民話がある。上州と田口の境がはっきりしていなかったころ、田口峠の辺りでは境界をめぐる村人の争いが絶えなかった。そこで高崎の殿様と田口の殿様が日時を約して城から峠に向かい、出会った所を境にしようと決めた

 ▼田口の殿様は早々に準備を整え、馬で急いだ。高崎の殿様は家来がせかしたにもかかわらず、ゆっくり牛に乗って出掛けた。高崎の殿様がやっと峠の坂道に差し掛かかると、田口の殿様がやって来た

 ▼「まさかこんなところで行きうとは」。驚いた高崎の殿様の言葉をとって、その場所は「馬坂の行逢坂ゆきあいざか」と名付けられたという

 ▼訪ねてみると、急斜面を畑にするため幾重にも織りなした石積みが美しい。ここで生まれ育った市川俊一郎さん(65)は「子どものころはどこの家でも優しくしてもらい、集落全体が家族のようだった」と懐かしむ。古き良き山村の姿を見た気がした。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
関連記事