2020/06/13【三山春秋】中国を流れる長江に三峡という...
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 ▼中国を流れる長江に三峡という景勝地がある。昔はたくさんの猿がいたらしく、唐の詩人・李白は〈両岸の猿声えんせい いてまざるに/軽舟已けいしゅうすでに過ぐ 万重ばんちょうの山〉と詠んでいる

 ▼晋の桓温という武将がここを舟で下ったとき、従者が子猿を捕まえた。すると母猿は岸を百里あまり追いかけ、舟に飛び移り息絶えた。腹をさくと、腸がずたずたに断ち切れていた

 ▼北朝鮮による拉致被害者、横田めぐみさんの父・滋さんと母・早紀江さんの姿をテレビで見るたび、「断腸の思い」とはこの2人のためにある言葉なのだと思った。再会の願いはかなわず、滋さんが87歳で亡くなった

 ▼2度、話をうかがったことがある。最初は2006年に夫妻が上毛新聞社を訪れ、問題解決への協力を求めたとき。JR高崎駅まで送る車中で、滋さんは仕事で3年間を過ごした前橋の思い出を語った

 ▼次は14年に講演のため訪れた桐生での記者会見。拉致被害者の再調査合意が政府から発表されたばかりで、大勢の報道陣が集まった。滋さんは「今度こそすべての拉致被害者が帰ってくると期待している」と言葉を絞り出した

 ▼晩年は体調を崩し、思うように言葉が出なくなっていた。17年4月、救出を訴える大会にビデオメッセージを寄せた。「めぐみちゃん、お父さんですよ」。まな娘に呼び掛ける声が今も耳に残る。

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