2020/07/12【三山春秋】読むときの年齢によって印象が…
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 ▼読むときの年齢によって印象が変わっていく書物がある。高崎市出身の歌人、吉野秀雄(1902~67年)の随筆集『やわらかな心』(講談社文庫)を読み返し、一つ一つの文章が胸にしみとおり、これまで以上に深い感銘を受けた

 ▼病に苦しめられ、親族の不幸に遭いながら、秀歌を作り続けた歌人の誠実な生き方が浮かび上がる傑作である。単行本は亡くなる前年の66年に出版され、大きな反響を呼んだ

 ▼詩人の八木重吉、師と仰いだ会津八一、良寛らへの敬愛の念を示す言葉に、何度もうなずかされてきた。しかし今回は、「病床に想う」と題した章の、生と死を見つめる最晩年の散文に最も強く引かれた

 ▼病床にあり、時折、呼吸困難に陥りながらも、〈現世眼前の飛ぶような毎日、毎日をしみじみと珍重して生きなくてはもったいないではないか〉と自身を励まし、こんな思いもつづる

 ▼〈いまわたしの胸の奥にあることばは、ひとの幸福をともによろこび 人の不幸をともにかなしむというものだ。(略)他にすすめるのではなく、自分がそうありたいとねがっているにすぎない〉

 ▼心揺さぶられるのは、このときの歌人と年齢がほぼ重なるからだろうか。あす13日は53回目の命日に当たる。〈歌を作って心慰みつつ、生きる力をえてきた〉人の清廉な言葉にもう一度触れたいと思う。

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