2020/11/01【三山春秋】〈上州は荒寥(こうりょう)とした所で...
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 ▼〈上州は荒寥こうりょうとした所で文化の伝統がちつともない〉。詩人、萩原朔太郎は生まれ育った土地をそう言い表した

 ▼一方で、その伝統のない環境に育ったことが〈自分を大胆な自由人〉にし、新しい文学である詩を作るようになったとも受け止め、こう指摘する。〈プロテスタントであり、ロマンチストである上州人にとつて(略)詩文学こそ、まことに身についた文学といふべきだろう〉(「我が故郷を語る」)

 ▼文化の伝統がないというとらえ方については到底納得できないが、この随筆や「郷土望景詩」などから伝わる、身近な場所への愛憎相半ばする思いは、葛藤と思索の末の表現であり、心を揺さぶる作品へと結晶させた詩人のすごみを感じさせる

 ▼朔太郎ほど故郷を深く考え続けた詩人はいないのではないか。生地前橋をうたった詩、短歌、俳句、随筆を収録する『萩原朔太郎郷土詩集』(1983年、前橋市教委発行)を開くたびにそう思う

 ▼〈一人のすぐれた詩人の精神と情緒との触れ合いとして、永く読み継ぐべき遺産である〉。解説で同郷の詩人、伊藤信吉さんが 位置付けた

 ▼故郷に直接触れていない作品も、土地の風景と密接に関わっていることが、近年の研究で指摘される。きょうは 朔太郎の生誕134年に当たる。その詩業はなお強く私たちを刺激し、驚きを与え続けている。

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