2021/01/28【三山春秋】後に作家となった半藤一利さんは…
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 ▼後に作家となった半藤一利さんは雑誌編集者になったばかりの頃、坂口安吾から原稿を受け取るため桐生市に向かった。安吾は当時、織物買継商として財を築いた書上文左衛門の屋敷に住んでいた

 ▼原稿は完成していなかった。やむを得ず逗留とうりゅうさせてもらったが、なかなか渡してもらえない。1週間がたち、「首になるかも」と帰社を告げると、翌朝原稿の半分を渡された。一晩で書き上げた分だった

 ▼桐生では毎晩、酒を飲みながら歴史談義に聞き入った。歴史眼を持って資料を読み比べ、隠された真実をあぶり出すことを教わった。〈生涯にあれほど輝いた、値千金の春の夜はなかった〉(『坂口安吾と太平洋戦争』)という

 ▼代表作『日本のいちばん長い日』は終戦時の政府や軍部関係者を取材し、玉音放送までの24時間を描いた。『昭和史』シリーズは戦争に至る道筋から復興までを平易に語り、ベストセラーになった

 ▼編集者として担当した司馬遼太郎が書こうとして書けなかった昭和の人物群像を描き出そうとした。近代史の暗部を世に問う原動力となったのは九死に一生を得た東京大空襲の体験だった

 ▼半藤さんが12日、90歳で亡くなった。「戦争はちゃんと外交的段階、政治的段階を踏んでやってくる」。為政者の言動を注視し、憲法9条の大切さを次世代に説き続けた晩年だった。

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