2021/03/22【三山春秋】書道に「永字八法」という…
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 ▼書道に「永字八法」という言葉がある。止め、跳ねや払いといった八つの技法が「永」という文字にすべて含まれていることを指す。運筆を学ぶのには良いが、これだけ練習すれば上達するということではないらしい

 ▼高崎市の多胡碑記念館で群馬書作家展を鑑賞した。作品を見ながら筆運びの緩急をなぞり、渇筆が生み出す線の勢いを味わう。分かりづらいのは「墨象」だ。タイトルを手掛かりに考えるが、文字の形は見えない

 ▼その墨象で活躍したのが書家で美術家の篠田桃紅とうこうさんである。100歳を超えても意欲的に制作し、今月1日に107歳で他界した

 ▼模範とされる書をまねることを嫌った。書道界からは「根無し草」と酷評されたが気にしなかった。「川」という字は三本線なのに、無数の縦線を引きたかった

 ▼作品を評価したのは海外の人々だ。招かれて43歳で渡米し、抽象表現主義が席巻するニューヨークで個展を開いた。会場には入りきれないほどの人。熱心に見ている青年に「ワタシハニホンゴデキマス」と話し掛けられた。若き日のドナルド・キーンさんだった

 ▼大英博物館やグッゲンハイム美術館など名だたる世界の美術館が作品を所蔵する。絵画や書に関する受賞は一貫して辞退した。〈私が消えても、作品はこの世に残る〉。最期まで信念に生きた人だった。

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