2021/07/26【三山春秋】俳句や短歌など短詩形文学は…
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 ▼俳句や短歌など短詩形文学はその短さゆえに、言葉にできなかった余韻が読者の胸を打つ。作者がハンセン病の元患者だったらどうだろう。作品を集めた『訴歌(そか)』(皓星社)がこのほど出版された

 ▼『ハンセン病文学全集』から約3300作品を抜粋した。施設名は記されていないが、俳人の村越化石さんをはじめ草津町の「栗生楽泉園」で暮らした人々の作品も収めている

 ▼金沢市出身の浅井あいさんは16歳で入所した。当時は患者を強制隔離する「無らい県運動」が吹き荒れ、家族を守るため逃げるように故郷を離れた。〈帰郷しないから安心あれ眉生えしを告ぐるたよりのあと書(がき)にかきぬ〉。家族を思い続け、遺骨はふるさとに埋葬された

 ▼旧利根村出身の沢田五郎さんは11歳で入所した。2004年には半生をつづった随筆で県文学賞を受賞した。〈ともどもに学びし鈴木もしばられて零下二十度の監房に死にき〉。懲罰施設「重監房」の非人道性を訴え続けた

 ▼金夏日(キムハイル)さんは在日コリアンに対する差別とも闘った。〈本名をわがなのるまでの苦しみをいっきに語り涙ぐみたり〉。失明し、指の感覚もまひして点字が読めなくなった。仲間と「舌読(ぜつどく)」に挑み、舌先から血が出るまで練習した

 ▼幼くして家族と別れ、本名を名乗ることさえできなかった元患者たち。『訴歌』は歴史の暗部を照らし、史実からは分からない心の叫びを伝えている。

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