2021/09/08【三山春秋】崩れた建物、傾く電柱…
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 ▼崩れた建物、傾く電柱、焼けた大木。鉛筆とペンで描かれた色彩のない風景が惨状を物語る。1923(大正12)年9月1日に起きた関東大震災。東京・渋谷に住んでいた竹久夢二は、直後から変わり果てた街と人々をスケッチして歩いた

 ▼絵の一部は文章とともに「東京災難画信」と題して新聞に連載された。〈どんな最大級の形容を持つてしても(中略)適確に言ひ表す言葉を持たない〉。女性誌への寄稿には衝撃をこうつづった

 ▼夢二と言えば美人画やポップな装丁、女性をとりこにした半襟のデザインといった印象が強い。だが竹久夢二伊香保記念館で公開中の震災スケッチからは、冷静なまなざしで現実を見つめる記録者の一面を感じる

 ▼作品とともに並べられた1冊のスクラップブックに目が留まった。市中に出回ったチラシなどを集めたもので、避難者への呼び掛け、行方の分からない家族らへの伝言、マスク着用の注意、復興に向けた東京市長の声明文などが貼られている

 ▼後で手に入れたのだろうか、大阪で配られたとみられる9月3日付の号外もあった。惨状を前にした夢二が残した資料の数々は、混乱する世の中や失意の中で必死に日常を取り戻そうとする人々の姿を伝える

 ▼災害級とされるコロナ禍のただ中で、われわれの日常もすっかり変わってしまった。夢二のスケッチから、いまを冷静に伝え、記録する大切さを感じた。

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