2021/10/07【三山春秋】詩人の萩原朔太郎は…
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 ▼詩人の萩原朔太郎は前橋市にある敷島公園の松林を好んで散策した。当時住宅街はなく、利根川河川敷から林が広がっていたそうだ。詩作にふけっていたのか、『利根の松原』という作品を残している

 ▼朔太郎に倣ったわけではないが、この松林をよくジョギングしたことがある。かつてマツタケが採れたと聞いたことがあったからだ。まさかと思いつつ、地面に目を凝らして走る姿は今思えば恥ずかしい

 ▼万葉集に「秋の香」と詠まれるマツタケは古来日本人に身近な秋の味覚だった。昭和初期の国内生産量は1万2千トン。主にアカマツの周囲に出るが、戦後木々が燃料のまきとして使われず、人が森に入らなくなると健全な松林が減った。近年は数十トンしか採れない

 ▼国内には1万種以上のキノコがあるともされ、名前が付くのは一部にすぎない。食べられるもの、毒のあるもの、正体不明で造形が美しいもの。「森の妖精」と呼ばれる野生種を見てきたが、マツタケには縁がなかった

 ▼ことしは国産マツタケが久々の豊作という。とはいえ庶民の口に入るほどではなく、手頃な輸入物は需要増や不作で高騰している。幻のキノコであり、手が届かないことに変わりない

 ▼利根の松原を歩いた朔太郎は見つけたろうか。よく読めば作中に〈ひとり蒼天の高きに眺め入らんとす〉とあり、いやしい身を反省した。次は地面でなく空を見上げに出かけたい。

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